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派手好きのバクーのためにと、彼らは打ち上げ花火を用意した。
パンパンと上がる小さな花火の光を見つめながら、サファイアは父に囁いた。
「……お父さま。あたし、このままここに残ってはダメ?」
ジタンはぎょっとして娘を見おろした。
「なんだって?」
「おじいさま、おっしゃったの。たくさん夢を見て大人になれって。―――あたし、ここで生きてみたいの。ここで、夢を見たいの」
サファイアは花火を見上げたまま。ジタンはその横顔をじっと見ていた。
「でも、サフィー。ここは、城と違っていろいろ大変なことも……」
「わかってるわ」
「きっと、わかってない。お前が考えているよりずっと大変だよ」
「わかってる。でも、もう決めたの」
「う―――――ん……」
腕組みして唸る父親の方を振り向いて、サファイアは微笑んだ。
「あたし、ここで大人になりたいの。おじいさまが始めて、お父さまが育ったこのタンタラスで」
強い瞳の光には、たとえ駄目だと言われても屈しないだろう色が混じっていた。
ジタンは溜め息をついた。
「母さん、泣くぞ」
「お母さまはきっと応援してくださるわ」
「……オレが泣きたい」
サファイアはクスクス笑った。
「お父さまが泣くときは、お母さまの胸を借りるんでしょ? 今は我慢してね」
―――まったく、どこで聞いたのだろう?
「……どうしても残るのか?」
「ええ」
「どうしてもどうしてもど――――してもか?」
「どうしてもよ」
ジタンははぁ、と溜め息をついて、頷いた。
「―――わかった」
「本当? いいの?」
「ダメって言ったって残るんだろ?」
「ええ、もちろん」
「だったら、いいって言うしかないだろう? まったく。―――なぁ、ジェフリーのことも関係あるのか?」
父親に問われ、サファイアは微笑んだ。
肯定はしなかったが、否定もしなかった。
***
何があっても、後悔はしない。
夢のために王女の位を捨てることに、絶対後悔はしない。
サファイアはそう約束した。
それから、何があっても帰らない、とも。
しかし。
ジタンは娘に言うのだった。
何かあったら帰ってこい。
お前の帰る場所は、一つじゃないだろう。
オレたちのいるアレクサンドリアだって、お前の帰る場所だろう?
サファイアは、父親の言葉に素直に頷いた。
帰るところがあるのは、とても素敵なことね、と。
―――だが。
彼女はその後、その人生のほとんどをリンドブルムで過ごすことになる。
そう。
父の育った、タンタラスという劇団兼盗賊団で。
-Fin-
サフィーがタンタラスに入った経緯のお話でした。
バクー氏は語り逃げですね(笑)
ちなみに、せいは演劇などには全然通じておりません(^^;)
なので、かなりヘベレケな語りでございますが、まぁ、サフィーの気持ちが動けばよし(何)
サフィー姫は子供の時、ジタンに似てるから何かやらかすんじゃないかと言われておりましたが。
・・・バッチリやらかしました(笑)
こりゃぁ、父も同罪だな(苦笑)
2002.11.15
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