Tantalus' Panic! 1794


「あ〜もう、これやない、これも違う! どこやってもうたんや〜〜!」
 あと一時ほどで『君の小鳥になりたい』アレクサンドリア公演が始まるという時。半狂乱のルビィが劇場艇の倉庫をあさって騒ぎ通していた。
「どうしたっスか、ルビィ」
「うるさいわ、ボケ! 寄らんといて!」
「なんだ、どうした?」
「ルビィが暴れてるずら〜」
「コーネリア姫の髪飾りったらあれしかないねんのに〜」
「またか。お前が前の公演で使ってそのままほったらかしにしておくから……」
「うるさいっ!」
 ブランク、一喝で黙る。
「兄キも、ルビィには弱いっスね」
「そりゃぁ、マーカス。ルビィを怒らせると恐いからずら〜」
「……」
 三人がそんなことを小声で話しているうち(一人は黙ったままだけど)、不意にルビィが声を張り上げた。
「これ、なんやぁ? ありゃぁ、懐かしいわぁ〜!」
 なんだなんだと寄ってきた男たちに、ルビィは古ぼけた紙っぺらを突きつけた。
「これ……。ピオナの遺跡の地図じゃないっスか?」
「ホントずら〜。懐かしいずら〜」
「ブランク、あんたがはったりきかせよったからに、うちらみんな死にかけたんやないか」
「いや、あれはそもそもだなぁ……」
「言い訳すな、男やろ?」
「……」
「兄キ、立つ瀬なしっスね」
「それは仕方ないずら〜」
「なんや、あんたたち。うちの……」
「いや、ないっス! 文句なんてないっスよ!」
「そうずら! ルビィは優しくてお淑やかずら!」
「……。まぁ、ええけど」
 必死に両手を顔の前で振って抵抗するマーカスとシナに、ルビーは肩を竦めてわざとらしく溜め息をつくと、再び地図を手に取った。
「懐かしいなぁ。うちらみんな、まだ子供やったな……」


 それは、彼らがまだほんの子供だった頃。
 と言うから、もう十年近くも前のことだ。
「ジタン! これ、見ろよ!」
 ブランクが息せき切ってアジトに駆け込んできたのは、夕飯時の少し前。
 タンタラスの子供たちの中で一番古株であり、年上でもあった彼。その頃はまだ悪戯盛りのやんちゃな少年だった。
「なんだ、ブランク?」
 青い目を見開いて、ジタンは尋ねた。
 相変わらず、尻尾は新しい興味を嗅ぎ付けてパタパタと揺れている。
 その頃のジタンはまだ背が低く、ボーイソプラノだった。
「ほら、これ。ピオナの遺跡の地図だ!」
「ぴおなのいせき?」
 ジタンが首を傾げると、隣で工具を手入れしていたシナが顔を上げた。
 とりあえず同年代らしいというシナは、その頃から既に老け顔で、しかし飛空艇のエンジンにかけては既にかなりの腕前だった。
「ピオナの遺跡って、あの、お宝が眠るって有名なピオナの遺跡ずら?」
「そうだ!」
「そんな地図、どこで手に入れたっスか、ブランク兄キ」
 目元までバンダナで隠し、スラム街ではかなり鳴らしていた新入りのマーカス。
 今ではすっかり子供タンタラスの一員になっていた。
「ん? 市場の魚屋の親父がさ、こんなのお客からもらったって、暇つぶしにくれたんだ」
「アホらし。そんなんガセネタやないの?」
 ルビィは読んでいた本から顔を上げ、冷めた目つきをして言った。
 田舎の実家を飛び出してリンドブルムにやって来たこの少女、この頃から既にルビィ然としていたようだ。
「しかも、なんで地図くれてやって、魚屋のおっちゃんの暇つぶしになんねん」
「だから、それは……」
「ブランクはアホやな〜」
「……」
 ……このコンビも既に確立していた模様。
「で、この遺跡に行くと、お宝が手に入るんだろ?」
 ジタンはそのやり取りを、笑いをかみ殺して見ていたが、「お宝」という言葉に待ちきれなくなったらしい。話題を戻した。
「え? ああ、そうなんだ。でさ、ここらで一発ボスに一泡喰らわせてやろうかと思って」
「みんなで行くっスか?」
「行きたいずら〜!」
「オレも行く!」
 男衆三人が両手を上げて騒ぎ立てた。
 すると。
「うちも行くで」
 ルビーが椅子から立ち上がり、そう言った。
「は?」
「せやから、うちも行くって言うとるん」
「なんで?」
 全員首を傾げる。
「なんやねん、あんたら! うちが行ったらいけない理由でもあるん?」
「ないけどぉ……」
「なんや、ジタン。はっきり言いや!」
「えっ? その、いえ、何も……」
「他に、文句のある奴いるんか?」
「……」
 もちろん、全員無言のまま。
「なら、ええやんか。うちも一緒に行くわ」
 と、ルビィはウキウキ。
「……ルビィ、お宝山分け狙いっスかね?」
「そうだと思うずら……」
 こそこそと話し合うマーカスとシナであった。

 夕飯のことも忘れ、彼らはアジトを出発した。
 地図の通りなら、リンドブルムから北へ二キロほど歩いたところ、森の中の洞窟が入り口らしい。
 もちろん、タンタラスのメンバーらしく、全員盗賊の出で立ち。
 腰にダガーを差し(シナはトンカチだったが)、勇ましさ百万点。
 と、彼らたち自身は思っていた。
「よし。今日から俺たちは『ブランク隊』だ」
「やだ! 『ジタン隊』がいい!」
「アホくさ……」
「どっちもどっちなネーミングっスね……」
「『飛空艇隊』ってのはどうずら?」
「いや、飛空艇関係ないし」
「アホやん、シナ」
「う〜。ひどいずら、ルビィ」
 町の人たちはその様子を微笑ましく見ている。顔見知りのおばさんが話しかけてきた。
「おやおや、子供タンタラスのご出陣かい?」
「うん。ピオナ遺跡まで!」
 ジタンが元気に答える。
「へぇ、そう。でも、もう直日が沈むよ」
「夏は日が長いし、大丈夫だよ、おばさん」
 ブランクが勇ましく答えると、おばさんは豪快に笑った。
「そうかい、気をつけてね。暗くなる前にお帰りよ」
 彼女は笑いながら、買い物籠を下げいそいそと家路についた。
「ちぇ、子供扱いだよな」
 と、背伸びした口調で言うのはブランク。
「ホンマや。もう立派な盗賊団やで、うちら。なぁ?」
「そうだよな」
「そうっスよね」
「そうずら」
 と、五人は憤慨するのであった。

 地図に示された森の辺りまで来ると、さすがに残り陽も翳ってきた。
 森の中は鬱蒼として、この時間は更に暗い。
 五人が五人、胸の中にある感想は同じものだ。
 しかし、そんな気持ちを振り払い、ブランクは勇んで言った。
「よし、行くぞ!」
 獣道を踏みしめ、五人はのろのろと歩を進めた。
「きゃぁ!」
 ルビィが可愛い悲鳴を上げた。
「どうした!?」
 バサバサと羽根の音。コウモリのようだ。
「大丈夫っスよ、ルビィ。ただのコウモリっス」
 暗闇の中、目の利くコウモリはあっと言う間に飛び去っていった。
「ブランク、ランプ点けた方がいいと思うずら」
「そうだな」
 タンタラスのメンバーたちに子供時分から叩き込まれたお陰で、こんな時の装備も抜かりはない……はず。
 ブランクは荷物の中からランプを取り出し、火を点けた。
 さぁ、行くか、という段になって、またまたルビィが悲鳴を上げた。
 しかも、今度は絶叫に近い。
「いやぁぁぁ!」
「今度は何だ?」
「いややぁ、あっちいってぇな!」
 足元からそう遠くないところに、小さな蛇がするすると散歩していた。
「なんだ、蛇か」
「大丈夫ずら。毒蛇じゃないずら」
「いやぁぁぁ!」
 ルビィは泣きベソ状態だ。
「ルビィは蛇には弱いっスからね」
「ルビィ、大丈夫だって。ほら」
 ジタンはダガーを抜くと、蛇を追いやった。
「な? もう行っちゃったぜ?」
 それでも、ルビィは怖々辺りを見回していた。
「うち、蛇は嫌いや。コウモリも嫌や。暗いんも嫌いや」
「暗いのは確かにちょっといやっスね」
「オイラも。蜘蛛とかも嫌いずら〜」
「おいおい、お前ら。早く行こうぜ」
 ブランクが呆れて言うと、男共は大きく頷いた。が。
「うち、嫌や。やっぱり帰る」
 ルビィはキッパリと言った。
「は? そんなこと言ったって……」
「嫌やもん。一人でだって町へ帰るわ」
「ルビィ!」
 ルビィは首を横にぶんぶん振った。
「やっぱり、来なければよかったんや。うち、どうせろくに盗賊の腕前高くないねんし。きっとそのうちみんなに置いてかれて、独りぼっちになんねん」
 言っているうちに、涙で声がくぐもってくる。恐怖からか、ルビィは日頃は口にしないようなことを喋りだした。
「みんな男の子やから、これから大きくなって、タンタラスの一員になって、きっと大活躍や。でも、うちは女やから、盗賊なんてなれっこないし、そのうちおんだされて、行くとこかてなくなって……」
「バカなこと言うなよ!」
 突然、ブランクが大声を上げたので、残りの三人はびっくりして飛び上がった。
「そんなの関係ない。仲間だろ?」
「せやけど、みんなは平気やのに、うちは全然……」
「だから、関係ないって言ってるだろ!」
 ルビィはしゃくり上げた。そして、彼女が黙り込んだので、辺りはしんと静まり返った。
 マーカスには二人が何を言い争っているのか、何となくはわかったが、口を挟むのははばかられた。
 鈍感なシナには、ルビィの言っていることも、ブランクの言っていることも、よくわからない。
 そして、ジタンは二人を代わる代わる見ていたが、不意に、ルビィの手を握りしめた。
「手、つないでてやるよ。そしたら恐くないだろ?」
 ルビィは目を見開いてびっくりしていたが、やがて小さく頷いた。
「じゃ、行こうぜ」
 ジタンはブランクを見た。しかし、ブランクは明後日の方を見ていた。

 しばらく行くと、地図の通り、確かに洞窟が見えてきた。
「ここかな……」
 ブランクは恐る恐る中をのぞき込む。その横から、ジタンものぞき込む。
 その背後から残りの三人ものぞき込む。
 全員、ごくりと唾を飲み込んだ。
 空には星が輝き始める時間。洞窟の中は真の闇と化している。
 彼らの鼓動は早くなった。
 しかし、盗賊の血も騒ぐ。
 顔を見合わせ、頷き合って確かめると、彼らは誰からともなく洞窟へ侵入した。
 水滴が垂れるような音がする。
 どうして洞窟という所はこういう不気味な音がするのかと、全員が思っていた。
 硬い岩の岩盤は凸凹して歩きづらい。
 どうにも不器用なシナが早速転びかけた。
「おい、気をつけろよ!」
 ブランクが声をかけた瞬間。
 やや高い天井から、バサバサと何かが舞い降りてきた。
「ま、また、コウモリなん?」
「違う! モンスターだ!」
 ジタンの声に、全員、ダガーを構える。シナはハンマーだが。
 一つ目のコウモリは全部で三体。ウォンバットだ!
「まずい。吸血使うぞ、あいつら」
 ブランクが誰ともなしに言った。
「ブランク兄キ、剣が届かないっスよ!」
 マーカスが言う。確かに、少し高いところで羽ばたいているモンスターたちに、刀身の短いダガーで攻撃するのは難しい。
 ブランクは壁を蹴ってジャンプすると、狙いを定めて攻撃をしかけた。
 バシュっという音がし、攻撃は成功。しかし、たいしたダメージを与えていないようだ。
 しばし、全員が絶句する。
 ウォンバットは余裕綽々、ホバリングを続ける。どいつから血を吸ってやろうかと舌なめずりしているようだ。もっとも、彼らに舌があればの話だが。
 ブランクは力強く頷いた。
「……よし、逃げるぞ」
 盗賊のお家芸、「とんずら」。
 彼らは「逃げる」ことのプロでもある……。

 しばらく走ると、道が二手に分かれているところに出くわした。
「どっちなん?」
 ルビィが聞く。
「どっちでもいいけど……」
「じゃぁ、右」
 ルビィはびしっと右の道を指さした。
 しかし、ここからが大変だったのだ。道は複雑に入り組み、枝分かれし、普通の人間なら、もうどこをどう歩いたかわからないような造りだ。
 そして、盗賊見習いの彼らもやはり……。
「あれ? ここさっき通らなかったっスか?」
 マーカスがはたと立ち止まった。
「気のせいだろ?」
 と、マッピング係のブランク。
「でも、あの岩、さっき見たような気がするっス」
「確かに、そんな気がするずら〜」
 と、シナまでもが言い出す。
 ブランクは首を傾げ、ジタンを見た。
「オレ? 全然覚えてない」
「お前なぁ……」
 その間、ルビィはきょろきょろと足元を見ていた。
「何やってんだ、ルビィ?」
 と、ブランク。
「ん? あんな、ビーズ探しとんねん」
「ビーズ?」
「そうや。絶対迷うやろうと思ったから、ブレスレットほどいてビーズを落としてきてん」
「ど、どこから?」
「最初の別れ道からやけど? せやけど、それどこにも見当らんし、違う道なんとちゃう?」
「ルビィ、偉いぞ!」
 ブランクはルビィの肩をバシバシ叩いた。
「い、痛いわ、ボケ! そうや。帰ったら代わりのブレスレット買うてや、ブランク」
「へ?」
 ルビィはすっかり元気を取り戻したのか、不敵に笑った。
「誰のお陰で迷わんと歩けると思うとるんや?」
「……」
「また、負けてるっスね、ブランク兄キ……」
「……これはもう、どうしようもないずら」
 マーカスとシナはまたまたこそこそと話していた。

 そして。
 それは突然だった。
 ブランクが握り締めていたランプが、ふっと消えてしまったのだ。
 突然の真っ暗闇。
 ルビィが悲鳴を上げ、マーカスとシナが喚き出した。
「いやぁ、何で急に暗くなんのん!?」
「恐いっス! このシチュエーションはなんか出るっスよ!」
「何にも見えないずら〜!」
 一向に明かりは点かない。
 一同に恐怖が襲い掛かってきた。
「モ、モンスターとか来たら、どうするっスか?」
「何にも見えないずらよ〜」
「帰り道ってどっちだったっけ?」
「こんな暗い中でわかるわけないっスよ、ジタンさん」
「いやや〜、もう帰りたい〜!」
「お前らちょっと静かにしろよ!」
 ブランクが焦ってつい強い調子で言ってしまった途端、ルビィとマーカス、シナが一斉に、わ〜っと泣き始めた。
「お前ら、泣くなよ〜」
 しかし、三人に泣きやむ様子はない。
「うわ〜ん、もう帰れないっス、俺たち〜!」
「いやや〜、アジトに帰りたい〜!」
「助けて欲しいずら〜!」
 そうこうしているうちに、ジタンまでうつむき、しゃくり上げ始めた。
「お前らぁ、泣くなよぉ」
 と、言っているブランクも袖口でごしごし目元をこする。
 洞窟の中でそれだけ大騒ぎすれば、もちろん……。
「おい、ガキ共! そっちにいるのか!?」
 聞き慣れた声。
 タンタラスのメンバーの声だ。
「お〜い、こっちで声がするぞ!」
 それと同時に、向こうの壁から次第に明るい光が近づいてきた。
 そして、聞きなれた「ヘッブシュ!」というくしゃみが聞こえ、曲がり角からぬっと、見慣れた巨人が姿を見せた。
「ボス!」
 子供たちは全員駆け寄る。
「お前らぁ、まったく何を……」
 叱ってやろうと待ち構えていたバクーの足元に、五人はぎゅっとしがみついて泣き出した。
 わんわん泣く子供たち一人一人の頭に順番に大きな手を置き、バクーは、今は叱るのをやめておいた。
 誰も見ていないのをいいことに、彼は父親のような微笑みを漏らしたのだった。

 しかし。
 無事アジトにたどり着き、かなり遅くなった夕飯を取ったあと。
 もちろん、ボスのお説教が始まったのだった。
「ブランク」
「はい……」
「まず、確かでもない情報に翻弄されるのは盗賊として情けないよなぁ。あの洞窟は自然屈で、お宝なんざ小指の先っぽほどもない。盗賊の間じゃ有名な話だ」
「はい……」
「それから、洞窟のようなダンジョンに入るときに、ランプ一つで行こうたぁ、どういう神経だ?」
「はい……」
「燃料が切れたら困るよなぁ、え? なっとらん。いつも言っとるだろう、準備には頭を使えって。お前は一番年かさだな?」
「はい……」
「一番年上のもんが一番しっかりする。タンタラスじゃそれが常識だったな?」
「はい……」
「はい、しか言えんのか、お前は」
 しょんぼり。
「ちっとそこで反省してろ。次、ジタン」
「え? オレ?」
「オレ? じゃねぇだろ。お前はこん中で二番目の古株だな」
「うん」
「なのに、なんだってそう呑気に構えとる」
「う〜ん……」
「お前には計画性ってもんがまったくない。盗賊にとっちゃ命取りだよなぁ、ジタン?」
「そうなの?」
「バカもん!」
 バクーはでっかい手のひらで、バシン、っとテーブルを叩いた。
 びくっ!
「無鉄砲でお調子もんなのは、しかたねぇ百歩譲っても、頭使わない突っ走り野郎は、俺は嫌いだぞ、え?」
「……う、うん、わかった」
「本当にわかっとるのか、お前は。それから、マーカス、シナ」
 二人は既にびくびくと首を竦めている。
「お前ら、男の癖にわんわん泣き喚くんじゃねぇぞ、みっともねぇ」
 二人とも更に首を引っ込める。
「俺は弱虫も嫌いだからな」
「す、すいませんっス、ボス……」
「でも、恐かったんだずら……」
「情けねぇな! 恐いなら行くなってんだ!」
 再びバシンとテーブルを叩くバクーに、二人はほとんど泣きそうになっている。
「まぁ、いいわい。で、ルビィ」
「わかっとるわ、ボス。うち、アホやってん。冒険は男の専売特許やもんな」
 ルビィは俯いたまま言った。
 ふと、バクーは不思議そうな顔をした。
「何をいきなり言うかと思えば。俺がお前をわざわざ女扱いしたことあったか?」
「え?」
 ルビィはしばらく考えてから、首を振った。
「ないわ、ボス。ボスはいっつも分け隔てなく接してくれはった」
「だろう」
 バクーはニッコリ笑ったあと、コホン、と咳払いした。
「お前が何を思ったか知らんが、俺はお前の剣の腕がさっぱり上がっとらんのではないかと思ったぞ。稽古を怠けておるだろう」
「だって……」
「え? 女も男も関係ないな、ルビィ? プロはプロらしく、しっかり精進するもんだ」
「……」
 バクーは満足そうに髭の生えた顎を右手でなでた。
「さて、それから。夕飯の時間に遅れた罰だ、お前ら全員、一週間夕飯抜きだな」
「え〜〜!!」
「何だ、このバクー様の決定に何か文句があるってのか?」
 五人は顔を見合わせ、ため息をついて首を振った。
 ボスに逆らうなんて、大人のメンバーでもできないだろう。


 もう直開演という喧騒の中、彼らはなんとなくしんみりとして、その時のことに思いを馳せた。
「ジタンさんが生きてたらよかったっスね」
 ポツリ、とマーカスが言う。
「アホなこと言わんといて、マーカス。ジタンは生きとるわ」
 ルビィはマーカスの背中を叩いた。が、その手に力は入らない。
 もう、二年近い。
 タンタラスのメンバーたちは、それでもジタンは生きているんだと互いに言い聞かせてきたのだ。
「そうだぞ、マーカス。あいつが死ぬわけないだろ」
「そ、そうっスよね」
「そうずら」
 そろそろ時間だぞ、という声が掛かった。
「しもた! うち、コーネリア姫の髪飾り、探してたんやった! うわ〜ん、どこいった〜ん?」
 焦って入り口近くの箱をあさる。
 と、ルビィが豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。
 入り口のところに手を掛けて、とてつもなく見慣れた男が立っていたのだ。
 彼は言った。
「お探しの品はこちらかな、コーネリア姫?」
「……!」
 その声に、地図に目を奪われていた男共も顔を上げた。
「え?」
「な?」
「あっ! ジタンさん!」
 金色の髪、サルのような尻尾、青い瞳。
 そこには、確かに彼らの仲間の一人、ジタン・トライバルが立っていたのだ!
 右手には羽飾りをひらひら握っている。
「ジタンやん!」
 ルビィはがばっとジタンに飛びついた。
 ブランクもマーカスもシナも。タンタラス風の荒っぽい歓迎で彼を迎えた。
「どうしたんだよ、お前!」
「生きてたんっスね、ジタンさ〜ん!」
「おいおい、泣くなって」
「普通泣くずら〜」
「まさか、幽霊とちゃうやろな」
「失礼な。ホンモノだよ」
 全員、申し合わせたようにジタンの背中をばしばしっと叩く。
「うん、確かに」
「本物みたいっス」
「足もはえてるずら」
「痛って〜な!」
「心配かけた分やっちゅうねん」
「へぇへぇ、すんませんでした」
 ジタンは照れくさそうに頭を掻いたあと、ふと真面目な顔をした。
「でさ。ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」


 このあと何が起きたのか。それは皆さんも知る限り……。


-Fin-

タンタラスがいっぱい出てくる話でございました。
なぜか私の小説はタンタラスがほぼ皆勤してます。タンタラス好きです。
しかし、子供な感じを出すのは結構難しい・・・。のわりに、子供ばっかり書いてますが(笑)
2002.9.6



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