Tantalus' Panic! 1795
リンドブルム劇場街、大きな時計が目印の「ラッキーカラー商会」。
ここに、暇をもてあました子供たちがいる。通称、「子供タンタラス」。
子供たちが集まれば、そこに生まれるはトラブル。でなければ騒ぎである。
「―――俺さぁ、思うんだけど」
「何、ブランク?」
上のベッドで短剣の手入れをしていたジタンは、ひょいっと下の段を覗いた。
「あの、爺さんの幽霊の噂、絶対ウソだと思うんだよな」
あまりの胡散臭さに誰も信じるとは思えない「ラッキーカラー占い」より、もっと胡散臭い噂がリンドブルムにはある。
リンドブルム城から東に少し行ったところ、ピナックルロックスに出るという、老人の幽霊。
警備隊が捜索に行くほどまで膨れ上がった、昔ながらのこの噂。しかし、未だにはっきりとその姿を見たものはいないと言う。
「どうしてっスか?」
マーカスがはて、と首を傾げた。
「兵隊まで出たずらよ。大人が真剣なんだから、本当だと思うずら」
と、シナ。
ブランクは枕の上で組んだ腕に頭を乗せ、う〜ん、と唸った。
「だってさ。誰も見てないって言うじゃないか」
「でも、誰か見たから噂になるんだろ?」
「昔の人が見たんじゃないっスか?」
「―――だからさ、怪しいと思うんだ」
ブランクは起き上がった。
「もしかしたら、何かお宝が隠されているのかもしれないぜ?」
「お宝!?」
と、文字通りシッポを振るのはサル少年。
「お宝隠して、誰にも見つからないようにウソの噂を流したんだ。うん、きっとそうに違いないぜ」
と、ブランクは自信たっぷりに頷いた。
「そ、そう言われるとそんな感じするずら……」
「だろう?」
「でも、もし本当だったら、警備隊の人たちが何か発見してたんじゃないっスかね?」
「―――だからぁ。たぶん、城の宝なんだよ。で、誰にも発見されないようにますます隠してるんじゃねぇか?」
「じゃぁさ、行ってみようぜ!」
と、ジタン。
「行ってこの目で確かめてくればいいじゃん! 警備隊には発見できない宝でも、オレたちなら見つけられるかもしれないし」
「盗賊ずらからね〜」
シナも頷いた。
「うわ〜、またアホらしいこと言うてるわぁ」
と突然、開いていた扉から顔を出し、ルビィが言った。
「うるせぇな、俺たちが何を話そうとお前には関係な―――」
「ふぅん、ボスに告げ口したろかな〜」
「うわ、ちょっと待て!」
と、ブランクは慌てる。
「何?」
「いやさ、あの『スーパートルネードタンタラスデコピンの刑』って新技がさぁ……どうにも」
と、頭を振る。
ジタンが小さな悲鳴を上げた。
「うわぁ、あれだけは嫌だ!」
「俺もっス」
「オイラもずら〜〜」
マーカスもシナもゲッソリと首を振った。
「―――確かにそうやね、あれは痛そうやったわ」
と、ルビィはクスクス笑った。
「でも、ボスに叱られるようなことするあんたらが悪いんやんか。面白いからボスに言うてみようかな」
「待て!」
ベッドから跳ね起きて、ブランクはルビィの腕を引っ張って部屋に入れ、扉を閉め切った。
「ちょ、なんやねんの!?」
「……こうなったら、ルビィも巻き込む。何言われるかわかったもんじゃねぇからな」
「うん、それがいいと思う」
「―――巻き込んでも何か言われるんじゃないっスか?」
「あれだけは勘弁ずら〜〜」
シナがまだ首を振って叫んだ。
すると。
ルビィはニヤリと笑った。
「じゃ、黙ってたるわ。その代わり、お宝は山分けやね」
―――来た。
「言うと思った……」
と、ブランクは溜め息をついた。
「それから、ピナックルロックス行くんやったらうちも行きたいねん。あそこ、綺麗な泉湧いとるやろ? いっぺん見てみたかったんや」
と、にっこり。
「……遊びに行くんじゃないんだけど」
「遊びやんか。どうせ幽霊見物ツアーやろ?」
「その言い方は、ちょっと怖い感じするっス」
「なんか嫌ずら」
と、マーカスとシナは顔を顰めた。が。
「でも、どうせ行くんならみんなで行こうぜ!」
人の話を聞いていたのか、一人あっけらかんなジタンに、ルビィは笑いかけた。
「あんた、アホ?」
***
ボスや兄貴分たちに気付かれないように、暗くなってから出掛けた。
ピナックルロックスまで歩いて二時間程度。
「立ち入り禁止」の看板が立ててあるすっかり暮れてしまった岩場を乗り越え、泉の湧いた不思議な木立に潜り込む。
「は〜、綺麗やぁ」
と、立ち止まったルビィが満足げに微笑んだ。
ブランクはキョロキョロと辺りを見回す。
「よし。じゃ、それらしいところを探してみようぜ」
「それらしいところって、どこっスか?」
「木の根っことかって怪しいと思う」
と、ジタン。
「地面まで掘らないとダメかもしれないずら」
「……チョコボじゃないんだから」
男連中は木の根元を覗き込んだり、岩の陰を覗いたりと忙しなく走り回っていたが。
ルビィは泉の岸辺の岩に座って、綺麗な花を眺めていた。
「不思議やね―――」
「何が?」
ブランクが尋ねる。
「リンドブルムなんてすぐそこやのに、見たこともない花が咲いとるの」
乗り出していた木の根っこから離れ、ブランクは首を傾げた。
「やっぱり、昔から隔離された土地なのかもな」
「だとしたら、こんな花が昔はいろんなところに普通に咲いてたんやろか」
ルビィは足元の赤い花に指先で触れた。
が。
姿の見えなかった残りの三人が一斉に上げた悲鳴が聞こえ、二人ともバッと振り向く。
「な、何?」
「モンスターかも」
ブランクは走り出した。
「ルビィはそこで待ってろよ!」
***
立ち上がって根っこの陰から様子を伺っていたルビィ。
コウモリ型のモンスターが空中をホバリングしている。
「―――うわ、嫌やわ。ここで待っとこ」
と、ルビィは再び岩に腰を下ろした。
―――幽霊。今出たらどないしよ。
ふと、そんな考えが頭を掠める。
「べ、別に、怖ないし……」
と、知らず呟いている。
でも、そう思うとそこら辺の茂みから、何かがぞわっと出てきそうで膝が震える。
「ルビィ!」
誰かが呼んでる。
でも、立ち上がれない―――。
「ルビィってば!」
顔を上げるとジタンが木の根っこにシッポでぶら下って呼んでいた。
「な、何!?」
「早くこっち来いって、ブランクが。なんかモンスターがいっぱい出てきて、ヤバそうだから帰るぞってさ」
「そ、そうなん?」
急いで駆け寄ると、なるほど。
さっきの倍の数のコウモリが姿を現しており、戦況はかなり不利な状況だった。
「ぎゃぁ!」
と、シナが悲鳴を上げて尻餅をつく。
「前が見えないずら〜」
「シナさん暗闇かけられたっス!」
「何―――っ? おい、ジタン! 目薬は?」
「あ、オレ持ってる〜」
「のんびりしてないで早く来いって!」
身軽に駆けていくジタンを横目に、ルビィはよいせ、と木の根をよじ登った。
「ブランク―――! うちどうしたらええん?」
「出口の方に向かって走れ!」
「わ、わかった……」
***
ようやくコウモリの大群を捲いて、四人はルビィが待っていたところまで走り抜けてきた。
「だ、大丈夫やった?」
と、ルビィが声を掛ける。
「―――何とか。これ以上こんなところにいたらどうなるかわかんないし、もう出るぞ。いいな?」
ブランクが全員の顔を見渡して尋ねると、一部渋々ではあったものの、みな頷いた。
が、突然。
ギィ――――――ッ。
と、不気味な鳴き声。
それも、物凄くすぐ側で――――!
「え?」
「うわっ!」
「ザ、ザグナル!?」
振り向いた先。大きな獣影、鋭く長い牙、角、背に生えた青い毛。
見間違うわけがない。だって、毎年のように目にしているのだから―――!
「―――マズいっス、ザグナルって言ったら、狩猟祭の目玉モンスターっス!」
「逃げるずら!」
言うが早いかとんずらを決めようとした彼ら。
しかし、後ろに岩の壁があり、思うように逃げられそうもない。
「ど、どないする?」
「闘って勝てるもんかな―――」
短剣をジャグリングしてジタンが呟く。
「そんな悠長なこと言ってる場合かよっ!」
「あ、電気溜めてるっス!」
「うわぁ、来るずら〜〜!」
全員ぎゅっと目を閉じ、次に来る衝撃に身構える。
ザグナルにサンダラを喰らったら、もしかして命はないかもしれない―――っ!
ピカッ! どっか〜〜〜〜ん!
全員耳を押さえてその場に蹲った。
ピリピリと電気の余韻が伝わってくる。
断末魔の叫びが聞こえ、ザグナルが太い木の根から落ちて水の中に倒れ込んでいく音が、バシャン、と響いた。
「――――え?」
まずブランクが顔を上げた。
次にジタン。
ルビィもマーカスもシナも。
全員、顔を上げて呆然とした。
「……な、何?」
「―――何が起きた?」
覗いてみると、ザグナルは白い煙を上げて倒れている。
何が何だか全く理解できないが、なぜかザグナルは倒れたらしい。
「……誰か、目ぇ開けて見てた奴―――……」
し――――――ん。
「……いるわけないか」
と、ブランクは溜め息をついた。
「か、雷みたいな音したっスけど……」
マーカスが震える声で言うと、ジタンもシナもウンウンと頷いた。
「自分で自分に雷落としたんやろか―――?」
ルビィは首を傾げて呟いた。
「と、とにかく! 早いとこ、こんなところとはオサラバしようぜ!」
ブランクが言い、全員もっともだと頷いた。
運の悪いところに落ちてくれた煙を上げるザグナルの横を通るのは怖かったものの、無事に橋のところまで戻ってきた一行。
全員そそくさと橋を渡る。
最後に渡ったジタンはふと振り向いて、濃い緑の中、橋の向こうに薄い人影を見た。
「―――え?」
彼は思わず立ち止まった。
その人影は、信じられないほど長くてたっぷりした白い髭を生やしており、右手に見たこともないような杖を持っていた。
老人の姿……!
目を丸くした少年に、老人はにっこりと微笑みかけた。
「ジタン!」
ブランクが呼ぶ声。
「何やってんだ、早く来いよ!」
「―――う、うん!」
踵を返して岩場の方に走る。
戻る直前もう一度見てみると、もう老人の姿はなかった。
***
朝日の昇りかけたリンドブルムの街。
「ぜ――――――ったい見たんだったら!」
「まさかぁ。寝ぼけてたんちゃうのん?」
「なぁ」
アジトに戻る途中、早朝の商業区、エアキャブ乗り場で全員ボスに捕まり、そのまま連行される途中で。
ついにジタンが言い放った「爺さんの幽霊目撃事件」に、他の仲間たちは疑わしげなじと目になった。
「違うってば! 絶対見たの!」
「どうっスかねぇ……」
「他には誰も見てないずらよ?」
ぷぅっと膨れたジタンの頭にバクーが手を乗せる。
「わかったわかった。ま、案外本当かも知れんな」
「だろ?」
と、ジタンは得意顔。
「だけどよ、その幽霊を見た奴ぁ、爺さんの怨念に呪われるって話だぜ。てぇへんだなぁ、ジタン。ご愁傷なこった」
びくり。
「―――うそぉ」
「ほれ、寄るな触るな、おめぇらも伝染るぞ!」
「きゃぁぁ!」
と、仲間たちは無下にも逃げていってしまった。
「やだ、怖い――――っ!!」
と、ジタンも駆け出した。
バクーはがっはっは、と豪快に笑ってから、もう少し懲らしめておくか、と頷いた。
ま、無事でよかった……。
―――もしかしたら、その爺さんの幽霊とやらがあいつらを救ってくれたのかも知れん。
バクーは髭の生えた顎を撫で、ふとそんな風に思った。
なんて思考も。
「待ってよ――――――!!」
「うわ―――! 来るな!」
「まだ死にたくないっス!」
「伝染るずら〜〜〜っ」
「いやぁ、向こう行ってや!」
「お前ら、ひでぇ――――――っ!」
という大騒ぎのおかげで中断せざるを得なかった。
「こら、騒ぐな! 朝っぱらから近所迷惑だろうが!」
バクーに襟首を引っ掴まれて、泣きべそのジタンはジタバタ抵抗した。
「日頃のバチが当たったんだな、ジタン。観念しろ」
「わ〜〜ん」
堪え切れずに笑いながら、バクーは「冗談だよ、んな噂ねぇから安心しろ」と、ようやく種を明かしてやるのだった。
-Fin-
ピナックルロックス探検隊(笑)相変わらずな子供タンタラスです(^^;)
ジタンが見掛けたのは、皆様お気付きの召喚獣、ラムウ氏。
彼らを裁きの雷で助けてくれました。
にっこり微笑んだのは何ででしょうね〜・・・。
たぶん、かなり騒がしくて愉快だったのでしょう、うん(笑)
でもね。書いてから間違い発見・・・。どこでしょう?(ぉぃ)
えとね。ザグナルが帯電したら・・・むにゃむにゃ(笑)ま、ファンタジーだし(はい?)
・・・背景がえらくタンタラスっぽくないな〜(笑)
ラムウっぽい感じ希望で(^^;) ピナックルロックスって結構好きv
2002.10.5 |
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