擦れ違い様、ぎょっとしたような顔をした双子の姉に、弟は訝しげな目を向けた。
「何だよ」
「べっ……! 別に何でも!」
妙に声がひっくり返っている上に、イントネーションが怪しかった。動揺しているのは目に見えて明らかだ。
リアナはそそくさとその場を後にしたので、ジェフリーも気にするのはやめて、悪友たちと遊びに出たのだった。根っから楽天家なのである。
一方リアナは、ショックでしばらく立ち上がれなかった。
間違いなかった。ついに抜かされた……弟に、身長を抜かされたのだ!
小さい頃は、よく「タンタラスの双子ちゃん」と呼ばれていた。
同じ日に生まれたのだが、難産で産後の肥立ちが悪かった弟は、姉よりかなり小柄で、知らない人には普通の姉弟にしか見えなかった。
体が小さかったからなのか、生来の性質なのか、ジェフリーは気が弱くて人見知りだったので、しっかり者で気の強い姉リアナの背中にいつもコソコソと隠れていた。
「ジェフリーちゃんは金魚のフンみたいねぇ」と、近所のおばさんによく笑われたものだった。
彼がクラスの悪ガキにいじめられて泣きベソで帰ると、いつもリアナがその敵を取りに行くのだった。
弟はずっと、小さくて弱くて守らなければならない存在だった。
それが、急に背が伸び始めた。
夜中にニョキニョキ音がしているんじゃないかというほど、あっという間にリアナを抜き去っていった。
……らしかった。
憂鬱だ。休みが終われば新学期が始まる。新学期の初めに毎年恒例の身体測定もある。
テストの点数も、通知表の評価も、50m走のタイムだって負けたことなかったのに。
こうしてはおれん。
リアナは台所へ行って、背が伸びる魔法のドリンクを探した。
「あんた、急にミルクなんて飲んでどないしたん?」
と、彼女の母親が目を丸くした。けど、無視した。
***
「また振られたっスか」
ハリーが呆れた声でそう言った。
「うるせーな」
ジェフリーはべぇっと舌を出した。
「その割にはあんまりショックじゃなさそうずら」
「へへ〜」
「……ついに頭がおかしくなったっスか」
「頭なら元から空っぽずら」
幼馴染たちの毒舌にも、ジェフリーはへらっと笑ったままだ。
「聞いて驚け、なんと今回の振られた理由がだな」
人差し指でラリのそばかす面をぴっと差す。
「『背が低いんだもん』じゃなかったんだ!」
―――沈黙。
「へっへっへ〜!」
「……それは笑ってていいことなんスかね」
「……背が低い以外にも振られる要素があるって認めたも同じずら」
ジェフリーが「何だよ」と唇を尖らせた。
「もう付き合ってる子がいるんだってさ。しょうがねーだろ?」
「ああ、そういうことだったっスか」
ハリーは頭の中で、カウントを11から12に直した。彼は、ジェフリーが今までに振られた女の子の数を数えているのだ。
「でも、最近ジェフリーは背が伸びてきたっスよね」
「まだお前のが大きいけどな〜」
実は、三つも年下のハリーにも負けていた。父親に似たのか何なのか、ハリーは年にしては長身でがっちり目だ。
ただ、そんな彼にも悩みはあった。
「俺は最近めっきり伸び止まりっスよ」
「そんだけありゃいいだろ〜?」
「今はクラスでも二、三番っスけど、このまま止まったらちっとも良くないっス」
ジェフリーはう〜んと唸った。
「まだ伸び代がある分ジェフリーのがマシっスよ」
「そうかなぁ」
ちらりと、眼鏡面の友人を見遣る。同い年でも年上に見えるくらいに背が高い、嫌な奴だ。
「お前、何食ったらそんな伸びんだよ」
ラリは答えずに、ニヤ、と笑っただけだった。
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