サンタと3人の子供たち



<1>



「サフィーがやるの!」
「ダ〜メ、早い者勝ちだもん!」
「ずるい〜ずるい〜」
 と、モミの木の天辺につける星を取り合う幼い兄妹。
「ほら〜、お前らケンカするなって」
 その襟首をひょいっと摘み上げ、引き剥がす。
 クリスマスツリーの星は、兄の手の中。従って、もちろん妹の方はジタバタと暴れだした。
「いやぁ、サフィーがやるの〜!」
「ダイ、お前兄貴だろ? 譲ってやれよ」
 父親に言われても、兄の方のダイアンは決して首を縦に振らない。
「僕が先につけるって言ったんだもん!」
「うわ〜ん」
 と、泣き出したのは妹の方、サファイア。
 勢いに押されてダイアンも泣き出した。
「お〜い、泣かないでくれ〜」
 父親のジタンはすっかり困り顔。
 こんな時最も頼りになるはずの、子供たちの母親ガーネットは仕事で留守なのだ。
「あなたたち、いい子にしてないとサンタさん来ないわよ?」
 真剣な表情でツリーを飾り付けしていた長姉のエメラルドが、振り向くと、腰に手を当てて溜め息混じりに言った。
 一瞬びくりと泣き止む二人。
 しかし、今度はさらに盛大に泣き出した。
「……あのさ、エミー」
「はい、お父さま」
「余計泣かしてどうするんだよ」
「すみません」
 と、ちっとも悪びれない顔で言うと、再び作業に戻ってしまった。
 ちなみに、こんな騒ぎは彼女にとって日常茶飯事過ぎた……。
「よし、わかった。お前たち二人でつければいい」
 ジタンは苦肉の策とばかりに、そう提案する。
「な、こうやって二人で持ってつければいいだろ?」
「「イヤ!」」
 同時に首を振る二人の子供。
「―――じゃぁ、どうすりゃいいんだよ〜」
「サフィーがつけるの!」
「早い者勝ちだってば!」
 ジタンの手がつい襟首を離していたことが災いして、二人は部屋の中を、わ〜っ! とばかりに追いかけっこし始めた。
 ゲンナリのジタン。
 再び、エメラルドがくるりと振り向いた。
「ちょっと、いい子にしてないとホントにサンタさん来ないわよ!?」
 キッパリ。
 なんだか、最近本当に母親に似てきたような気がする。
 ……容姿だけでなく。
 幼い弟妹はぴたっと走り回るのをやめた。
 ここぞとばかりに、ジタンも相槌を打つ。
「だよなぁ。いい子ならいい子なほど、サンタさんは好きだと思うな、父さんも」
 と、大変実感のこもったお言葉。
 ダイアンとサファイアは顔を見合わせた。
「お、おにいさま、おほしさまつけてもいいよ」
「い、いいよ、サフィーがつけて」
 ジタンはニッと笑った。
 今ほど“サンタさん”なる信仰に感謝したい時はない。
「よし、じゃ。抱っこしてやるから二人でつけよう、な?」
 兄妹は素直に肯いた。


 無事、クリスマスツリーの天辺には星が輝くに至り、さりげなく、ジタンは三人の子供に尋ねてみた。
 ―――実はこれ、ガーネットが残していった宿題……なのだ。
「で、お前たち、サンタさんには何をお願いしたんだ?」
「わたしは、エイヴォン卿のご本をお願いしました」
 目を輝かせながら、エメラルドが答える。
「そっか〜、ダイは?」
「僕はね、カードゲームのカード!」
「なるほど。で、サフィーは?」
 こんな時真っ先に自己主張するはずの末子は、なぜか黙ったまま。
「サフィー?」
「サフィーはね、ナイショ」
「はい?」
「ナイショ〜!」
 と、再び走り出すサファイア。
「あ、コラ、待て! 内緒ってなんだ、内緒って!」
「サフィーとサンタさんだけのナイショ!」
 ―――それは困る。
「いや、あのな、サフィー。内緒にしててもサンタさんには通じないだろ?」
「オイノリしたからヘイキだもん!」
「いや、でもだな……」
 ここは一つ、ハッタリをきかせるしかない。
「実はだな、毎年毎年この季節になると、父さんはサンタさんにお前たちが欲しがっているものを手紙で送っているんだ」
「そうなの!?」
 と、ダイアン。目を丸くして驚いている。
「そうそう。だから、欲しいものを言ってくれないと、手紙を書けないから困るんだ。サフィーはまだ字が書けないだろ?」
 サファイアは考え込むように俯く。
 ―――しめた!
 喜んだのもつかの間。
「絵なら描けるもん!」
 と、挫けもせずに跳ね回る。
 ……誰に似たんだ、この頑固さは。
「じゃ、サフィーが絵を描いて、それを父さんに渡してくれればいいからさ」
「イヤ」
「あのなぁ……」
「おとうさま、見るからイヤだもん!」
 彼女は、重い扉を開くと部屋を飛び出していった。
「待て! サフィー!」
 と言われて待つくらいなら、苦労はしないのだった。






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