<3>
夜十時。
ハリーはぐっすり眠っている。
ラリは両耳を塞いで、じっと耐えていた。
双子はさっきから声を潜めて―――いるつもりで、ずっと喋り続けていた。
「まだかな〜」
「そろそろ眠いんじゃないの、ジェフリー」
「うっるさいな! 今年は絶対頑張るんだよっ」
「ふぅん」
―――眠れん。
ただでさえ、階下からは大人たちが時折上げる笑い声が響き、なんとも落ち着かないのだ。
―――来るなら早く来て欲しいずら、サンタさん。
ラリはさめざめとそう思った。
「あんた、何お願いしたの?」
「へっ、お前になんて言うかよ」
「んなっ! 今お前って言ったでしょ、信じらんない!」
「お前はお前だろ、うるせぇな!」
「私の方が三時間年上なのよ、わかってんの?!」
「たった三時間早いからって何だよ、オバチャンってだけだろ?」
「オバ……っ、あんたね! そっちこそガキじゃないのよ!」
「なっ、ガキ?! 言いやがったなババァ!」
「何よクソガキっ!」
「ガキじゃねぇよ、ブス! デブ!」
「うるさいわね、チビ! オタンコナス!」
「そっちのがうるせぇんだよ、ドテカ……」
「うるっさ――――――――――――いっ!」
バンッ。
思い切りよくドアが開き、母親乱入。
「……うちが寝ろ言うたら、寝んかいゴラァ」
し―――――――――ん。
ルビィ、目が据わっている。
「「ご、ごめんなさい……」」
あまりのド迫力に、ハリーまで起きてきたが。
全員石のごとく固まってしまった。
と、そこへ。
「ルビィ、どこ行った?」
ブランクが酔っ払いを探しにやってきた。
「お父さ〜んっ」
「こっちか?」
戸口から顔を出し、途端にしかめっ面になってルビィの腕を引っ張った。
「お前な、こっち来いって」
ルビィは意外にあっさりと部屋から出て行った。
廊下でまだ何かブツブツと言っていた、が。
ブランクは居間へ戻っていく頼りない足取りを確認した後、もう一度子供部屋を覗き込んだ。
「まだ起きてたのか?」
「「……うん」」
と、双子。
「いい加減に寝ろよ。もう遅いぞ」
「「はぁい」」
ブランクは部屋に入ると、揃ってしゅんとなっている子供たちを毛布に包んだ。
「知ってるか? 朝まで起きてても、サンタには会えないんだぞ」
「えっ?」
「そうなの?」
「そうさ。サンタは魔法が使えるからな。子供たちに見つからないように、こっそりプレゼントを配るんだ」
「どうして?」
と、ジェフリーが無邪気な目で父親を見上げる。
「そうだな……照れ屋、なんだろ」
「ふぅん」
「ほら、そうとわかったら、いい子でお休み」
「「おやすみなさ〜い」」
ブランクは二人の子供が目を瞑ったのを確認すると、今度は向かいの二段ベッドの方へ振り向く。
「ハリー、寝ないのか?」
「ルビィおばさん、怖いっス……」
「ああ、そうか」
と、ブランクは笑った。
「いい子にしてれば大丈夫だよ」
「ホントっスか?」
「本当だ」
ハリーはようやく安心すると、また枕を抱き寄せて横になった。
「お父さん、明日迎えに来てくれるっスか?」
「来てくれるよ」
「忘れないっスか?」
「忘れるもんか、ちゃんと来るさ」
ハリーは小さく頷くと、目を閉じた。
ブランクは微笑んでから、下の段を覗き込む。
「悪いな、ラリ。喧しいだろ」
「慣れてるずら」
飄々と答える少年。
「それに、もう静かになるずら」
「そうだな」
ブランクは苦笑した。
「何かあったら呼んでくれるか?」
「わかったずら」
年齢より幾分大人びた少年は、自分の息子娘より年上に見える。
だからなのか、すぐこういう役割を担わせたくなってしまう。
大人しく目を瞑ったソバカス面を見つめて、ブランクはふむ、と小さく唸った。
そして、忍び笑いを漏らしながら居間へ戻った。
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