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「どうしたお前ら」
 と、団長が恐い声で練習を中断させたのは、次の日のことだった。
「揃いも揃って稽古に集中できないってのは、どういうことだ?」
 その日の稽古は、二幕の四場で、公爵と、シーザリオに扮したヴァイオラが恋愛について談義を交わすシーンから始まったが、ラリは始終セリフに詰まり、サファイアは歌っているときも上の空だった。
 それで場面を変えて、四幕の一場、オリヴィアがセバスチャンをシーザリオと思い込んで屋敷へ誘う場面をやらせてみたが、三人とも気が散って稽古にならなかった。
 今日は午後から大人の団員も加わったシーンを練習する予定になっていたが、「取り止めだ」とブランクは言った。
「時間の無駄だ。みんな忙しいんだからな」
 子供たちは全員俯いたままだった。



 昨日の午後、あの後サファイアはリアナに最近どうしたのかと問い質した。
 が、彼女は答えをはぐらかした。
「どうもしないけど。普段どおりだよ」
「嘘よ。わからないわけないじゃない」
 サファイアは顔を背けるリアナの正面に回って一生懸命訊ねたが、リアナは「何もない」と頑なだった。
「どうして? あたしは何でもリアナに相談してるのに、リアナはあたしには何も言ってくれないの? あたしが子供だから?」
「そうじゃないわ」
「でも、そうなんでしょ?」
 サファイアは酷く哀しそうな目をしたが、リアナは何も言えなかった。
「みんなそうよ。あたしが子供だからって何も話してくれないもの。あたしだって、好きでみんなより遅く生まれてきたわけじゃないのに」
 それでもリアナは打ち明けなかったので、気まずくなった。
 さらに、リアナと喧嘩したらしいサファイアを庇おうとしたジェフリーが、逆にリアナと喧嘩になり、結果サファイアとも喧嘩になった。それで、それを察知したハリーは昼間のこともあり、落ち着かなくなった。


 だから、そのまま稽古に行っても、誰も集中などできるはずもなかったのだ。


 ブランクは稽古の中止を宣言してアジトへ帰ってしまったので、彼らも仕方なくそれぞれ帰り支度を始めた。
 いつもは喧しい稽古部屋も、今日ばかりは小さな咳払いさえ響くほど静かだった。
 ぱらぱらと一人ずつ荷物を抱えて家路へ就いた中、サファイアはラリが一人残っているのに気付いた。
 稽古部屋のドアを閉める時、サファイアは少しだけ手を止めた。
 ラリは、最後の幕のセリフを諳んじていた。



***



公爵「なんと強情なのでしょう! 貴女は残酷な方だ、オリヴィア姫。貴女のそのひねくれた無情な祭壇に、いまだかつて捧げられたこともない真実の心を捧げてきたこの私は、一体どうしたらいいというのですか?」








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