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 クリスマス・イヴの夕刻頃、ガーネットの乗った飛空艇は無事アレクサンドリアに着陸した。
 大喜びで出迎えに走る三人の子供たちを眺めながら、ようやく嵐のような状況から開放された父親は、大げさな溜め息をついたのだった。


 飛空艇のステップを降り立った母親の足元に駆け寄る子供たち。
 ガーネットは、その頭を一つ一つ優しく撫でた。
「みんな、いい子にしていたの?」
「してたよ!」
 サファイアが即答し、ガーネットは思わず噴き出した。
「お父さまを困らせていたのはあなたでしょう、サフィー?」
「困らせてないもん」
 ぷくっと頬を膨らませる。
「ウソつけ」
 と、ジタンは笑いながらサファイアの短い金髪頭を些か乱暴に掻き回した。
「お帰り、ダガー」
「ただいま」
 いつも通りにっこり笑う妻の微細な変化を見逃さない彼は、子供たちを追い立て、城の中へ先に戻らせる。
「何かあったんだろ」
「大丈夫よ、少し疲れてるだけだわ」
 ジタンは腕を伸ばしてガーネットを抱きすくめた。
「オレに嘘ついても無駄だからな―――ダガー、熱ないか?」
 慌てて、肩に寄り掛かる頭に手を当てる。
「……大丈夫よ」
 小さく呟いた言葉とは裏腹に。
 心から信頼する温もりに包まれ、安堵から、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまった。
 ひどく遠くから聞こえるようないくつかの叫び声の中、ガーネットの意識は急速に闇へと堕ちていった。

 ―――誰かに抱きとめられた感覚を残して。



***



 目を覚ますと、暗闇に仄かな明かりが見えた。
 随分夜が更けたらしい。
「お、気が付いたか?」
 次に目に入ってきたのは、見慣れた金色。
 青い瞳がじっと彼女を見つめた。
「ジタン……」
「たぶん過労だろうってさ、トット先生が。忙しかったんだな、ダガー」
 額にかかった黒髪を払って手を置くと、ジタンは満足そうに微笑んだ。
「熱も下がったし、もう大丈夫だ」
 ガーネットもつられて笑う。
 そして、ふと窓に目をやった。―――月が傾きかけている。
「今、何時なの?」
「あ、そろそろ日付が変わった頃だな」
 ジタンも窓の方へと目を向けた。

 ―――しばらくの静寂の後。

「エーコのこと、やっぱり揉めてるのか?」
 何気ない風にそう問いかける夫に、ガーネットは小さく息を呑んだ。
 隠しておくつもりは毛頭なかったけれど、こんなに真っ向から聞かれてしまうと、思わず困惑が顔に出てしまう。
「……シドのおっさんもケチ臭いなぁ」
「違うの。おじさまはいいっておっしゃるってるのよ? けど……」
 リンドブルムの貴族に、アレクサンドリア貴族ほどの大きな力はないのだが。
 それでも全会一致で難色を示されれば、例え大公でも簡単に切り捨てることは出来ない。
「エーコももう、年頃でしょう? だけど、みんなから祝福されなきゃ結婚なんてしたくないって言うし……」
「ワガママだなぁ、あいつも」
 呆れ顔のジタンに、まさか自分たちが国民全ての祝福を受けて結婚したのがその発端なのだとは言い出せないガーネット。
 仕方ないので、代わりに苦笑しておく。
「でもね、きっと諦めないで頑張ると思うわ。なんたって、エーコだもの」
「まぁ、な。エーコだし」
 本人が聞いていたら猛烈に怒り出しそうな言い草で二人は笑い合った。
「よし、それじゃぁさ。ちょっと行ってくるよ」
 突然、ジタンはひょいっとベッドサイドから立ち上がった。
 ガーネットは一瞬訝しげな表情をする。
「どこに?」
「眠りの国でお待ちかねの、子供たちのところへ、さ」
 部屋の片隅に積み上げられていた三つの包みを抱え、ジタンがおどけた素振りで言うと、ガーネットは合点して微笑んだ。
「行ってらっしゃい、サンタクロースさん」






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