<5> 姉弟の中でも最も気の優しいダイアンは、母親が倒れたことが余程ショックだったらしく、愛用の枕を抱き締め、小さく丸まって眠っていた。 夕方、ジタンがガーネットを抱きかかえて寝室まで運ぶ途中、ダイアンは少し後ろにくっついて歩きながら、ずっと泣きじゃくっていたのだ。 寝付く寸前まで泣いていたのだろう、頬に涙の跡が残っている。 茶色い頭をそっと撫でてから、ジタンは枕元にプレゼントを置いた。 姫君たちの部屋へ行ってみると、サファイアのベッドはもぬけの殻。 一瞬ぎょっとしたが、目を凝らしてみると、エメラルドのベッドに寄り添って眠る姉妹が見えた。 ジタンはほっと息をつく。 不安げな表情で手を繋いだまま眠っている小さな姉妹。その顔を覗き込んで、ジタンは微かに眉を顰めた。 枕元にプレゼントを置き、昼間末っ子が吊した靴下から手紙を抜き取って。 彼ははたと手を止めた。 サファイアが描いたクマの縫いぐるみ(らしきもの)の上に、黒いクレヨンで大きなばってん印。 その隣に、黒髪のお姫さまが描かれていて。 エメラルドの字で添え書きがしてあった。
*** ジタンが部屋に戻ると、ガーネットは起き上がって彼を待っていた。 「ご苦労さま。……あら? 何持ってるの?」 「見るかい?」 悪戯っぽい目で笑うと、ジタンはガーネットに、件の『サンタさんへの手紙』を渡した。 ガーネットは一目見て、まぁ、と微笑む。 「なんか子供ってさ、いつの間にかおっきくなってるもんなんだな」 溜め息混じりに呟くジタンに、ガーネットは思わず。 「そうよ。あなたがどこかへ出掛けているうちに、みんなあっと言う間に大きくなっちゃうわよ?」 ジタンが気まずそうに目を逸らすと、ガーネットはクスクス笑った。 「嘘よ、ジタン。子供ってね、親の見ていないところで大きくなるのよ」 「へ?」 びっくり眼で振り向くジタン。 「わたしたちの見ていないところでわたしたちの知らない経験をして、そして知らない間に大きくなるのよ。いつまでも親の側にいてばかりじゃ、ちっとも大きくなれないんだと思うわ。―――あなただって、覚えがあるんじゃない?」 さぞかし悪戯っ子だったろう夫に、笑みのこもった視線を送る。 観念したジタンが苦笑いを浮かべて肯くと、やっぱり、とガーネットはふざけたように溜め息をついた。 そして、今度は眉を顰めて本格的な溜め息をつく。 「そういえば、せっかくのクリスマスだったのに、子供たちに悪いコトしちゃったわね」 「クリスマスなんかよりさ、ダガーが元気でいてくれる方が子供たちは喜ぶよ」 青い瞳の優しい色に引き寄せられるように微笑み、ガーネットは肯いた。 「そうね。でも、もう大丈夫よ」 「ダガーはいっつも大丈夫ばっかり言うからなぁ」 「本当に大丈夫だもの―――ところで」 と、ガーネットは少し身を乗り出し、 「お仕事が済んだのなら、サンタクロースさん? 今度はわたくしのお願いを聞いてくださらないかしら?」 清かな笑みで大胆発言の女王様に、一瞬目が点になるその夫。 思わず笑い出したガーネットの頬に軽く口付けし、ジタンは囁いた。 「喜んで、女王陛下」 |