♪Surprise Party♪ 暦の上ではもう夏も終わったというのに、相変わらず日差しの強い9月の午後。 いつも公務に忙しいガーネットがその日は午後から休みをもらえるらしいことを、耳ざといジタンは知っていた。 ので。 頃合を見計らい、ジタンはガーネットの部屋を訪れた。 ―――――が。 「ダガー」 ドアを開けてみると、部屋の主は留守だった。 「あれ? ダガー?」 きょろきょろ探し回ったけれど、やっぱりいない。 ジタンは少しがっかりして廊下に出た。 ちょうど、ベアトリクスが向こうから歩いてくる。 「あ、ベアトリクス!」 彼女は立ち止まった。 「はい、何でしょう?」 「あのさ。ダガー知らない?」 「陛下ですか? さぁ……」 彼女は首を傾げ、それからおもむろに、 「スタイナーなら存じているかも」 と言う。 「そっか、わかった。サンキュ!」 聞くや否や、ジタンはあっという間に廊下を駆けていった。 ベアトリクスはそれを見送って、口元に優しげな笑みを浮かべた。 この暑い中でもガシャガシャいう鎧をしっかり着込んだスタイナーを発見するのに、大して手間はかからなかった。 「おっさん」 ジタンは、船着場でウロウロと見張りをしているスタイナーに声をかけた。 「何であるか」 スタイナーは幾分煩そうな顔で振り向いた。 「なぁ、ダガー知らないか?」 「知っていても貴様には教えん」 「何だよ、それ〜」 口を尖らせたジタンに、スタイナーは早速、説教開始。 「だいたいにして、貴様はだな……」 「あ〜、はいはい。わかりました」 ジタンは耳を塞いで逃げようとする。 「待て!」 と、スタイナー。 「待てって言われて待つヤツがあるかよ!」 ジタンはぴょんっと船に乗り、 「よし、超特急で町まで頼む」 と、舵取りの兵士に目配せした。 「はぁ……」 兵士は舵を握り、船を岸から離した。 「こら―――っ! ジタン――――っ!!」 岸辺でカンカンになっているスタイナーにひらひら手を振り、ついでにシッポも振って、ジタンはニッと悪戯っぽく笑った。 ところで。 ガーネットを探しているのに町へ来てしまったジタン。スタイナーの怒りが収まるまで、城には帰れそうもない。 そこで、裏通りのルビィの芝居小屋を覗いてみた。 「あら、ジタンやないの。どないしたん?」 「いやさ。ダガー見なかったよな?」 「見てへんよ」 「だよな―――……」 ガックリ。 「あ、そうや。せっかくたまに来たんやし、ちょっと芝居でも見ていきや」 「え?」 もちろん、問答無用。 椅子に座らされてたっぷり芝居を見させられ。 芝居がはねたときには、もうお茶の時間になっていた。 船着き場の方へと歩く途中、アレクサンドリア広場で、なぜか縄跳びしている子供の集団と鉢合わせた。 揃って同じような容姿。ビビの子供たちだ。 「お前たち、こんなところで何してるんだ?」 とジタンが話し掛けるや否や、 「あ、ジタンだ!」 ×6。 「ねぇねぇ、遊ぼうよ、ジタン!」 「縄跳びしよう!」 「追いかけっこしよう!」 「かくれんぼしよう!」 「ちょっと待て。なぁ、誰かダガー見なかったか?」 ジタンはぴょんぴょこ跳ねながらせがむ子供たちを抑え、尋ねる。 「おねえちゃんは見てないよ」 ×6。 「そっか……」 「ねぇ、ジタン、遊ぼう!」 せがみ倒されて、仕方なくジタンはしばらく黒魔道士たちに付き合った。 けれど、心は留守。上の空である。 子供たちはやがて遊び飽きて、ジタンを解放した。 城へ戻ってみると、入口付近でスタイナーがまだ見張っているのが見えた。 しょうがない。裏庭に回って窓から忍び込むか。 気付かれないように忍び足で歩いて城をぐるっと回ろうとしたとき。 「おや、ジタン殿」 と、いきなり呼びかけられた。 ぎくりとして振り向くと、ドクトル・トットがニコニコして立っていた。 「なんだぁ、トット先生か」 「そんなにこそこそと、どうされました」 「いやさ……。あ、そうだ! ダガー見なかったか?」 「ガーネット様ですか? そうですねぇ」 トットは数分考えていた。 「確か昨日……」 「昨日はいい、昨日は」 「今日ですと……朝早くに、本を……」 「朝もいいって。今のことを聞いてるんだよ」 「そうですねぇ、お昼から後はお目にはかかっていませんが」 はぁ。 ジタンはため息をついた。 「どこ行っちゃったのかなぁ……」 「お部屋におられるのではないですか?」 トットの言葉に、ジタンははっとした。 「そうか、そうだよな。入れ違いでもう帰ってきてるかも……」 途端に元気を取り戻し、 「ありがとう、先生。じゃぁ!」 そう言い残し、ジタンはトットと別れた。 「ホッホッホ、元気がおよろしいですな」 と、彼は笑っていた。 窓からガーネットの部屋に潜入してみると、そこにはなぜかエーコがいた。 「あれ? エーコ?」 「あ、ジタン! もう、レディの部屋に窓から入るなんてダメじゃない!」 腰に手を当てて、エーコはジタンに注意する。 ジタンは頭を掻いてから、 「ダガーは?」 と聞いてみた。 すると。 「ダガーなら、いないわよ」 と、即答。 再びがっかり。 「ダガーはお仕事ではないの?」 「今日は昼から休みのはずなんだけど……」 「じゃぁ、お昼からずっと探しているの?」 まぁね、とジタン。 エーコはころころ笑い出した。 「それはご苦労様なのだわ。そんなことより、エーコ、ここへ来る途中でフライヤに会ったわ」 「フライヤ?」 エーコは頷いた。 「ジタンに会ったら町の酒場に来るように伝えて欲しいって言ってたわ」 「なんか用事かな……」 エーコは首をかしげた。 「特に何も言ってなかったけど……。とにかく! 自分で聞きに行ったらいいわ」 ジタンは渋々頷くと、再び窓から出て行った。 「やっぱり窓から出て行くのね……」 エーコは半ば呆れたように呟いた。 「おお、来たか」 酒場に行ってみると、フライヤとサラマンダーが待っていた。 「何だよ、なんか用?」 「なんじゃ、機嫌が悪いのう」 「だってさぁ……あ、なぁ、ダガー見なかったよな?」 フライヤは首を横に振り、サラマンダーは肩をすくめた。 「探しておるのか?」 と、フライヤが尋ねる。 ジタンは膨れっ面で頷いた。 「ま、ダガーとなら、いつでも会えようが」 「でも、せっかく今日はダガー休みなのに―――……」 まだ膨れているジタンを、フライヤは呆れ笑いして見ている。 「おぬしなら、ダガーの居場所ぐらい即見当もつきそうじゃがな」 「う〜ん……」 考え込んで、ポン、っと膝を打つ。 「あ、あそこかも」 ジタンは立ち上がった。 が。フライヤがシッポを引っ張って座らせる。 「待つのじゃ」 「いって〜ぇ、何すんだよ、フライヤ!」 「あとどれくらいじゃ、サラマンダー」 話し掛けられたサラマンダーは時計に目をやって、ふん、と鼻息をついた。 「十五分。まったく、面倒だな」 「ま、そう言うな」 話の内容がさっぱり掴めないジタンは、二人を交互に見て、 「何だよ」 と不機嫌そうに聞く。 「ん? 何でもないぞ。ときに、おぬしダガーとはうまくやっておるのか?」 フライヤはジタンのシッポを握ったまま、事も無げに尋ねる。 ジタンはほっぺたを膨らませてそっぽを向いた。 「余計なお世話」 「余計でも何でもないじゃろう。私もダガーのことは心配しておるからな。おぬしと恋仲では気も安まらんじゃろうに」 サラマンダーがこっそり失笑する。 「あ、お前今笑っただろ!」 「何のことだ?」 サラマンダーは何喰わぬ顔。 思わず食ってかかろうと立ち上がりかけたが、フライヤはまだシッポを離していなかった。 当然、椅子に尻餅を付く羽目になる。 「あまり心配ばかりかけるでないぞ、ジタン。ただでさえ、ダガーは何かと心労も多いのじゃからな」 むっつりと黙り込んだジタンに、フライヤは説いて聞かせるような口振りで言っていた、が。 「で、あとどれくらいじゃ?」 「十分」 「ま、もうよいじゃろう。どうもこういうことは得手ではなくての」 フライヤがシッポを離すのと同時に、ジタンは勢いよく立ち上がった。 「ったく、何なんだよ!」 「今にわかる」 フライヤは含み笑いしてから、ジタンを追い払った。 「ほれ、おぬしの心当たりを探しに行くのではなかったのか?」 ちっとも納得のいかないジタンは、ふくれっ面のまま酒場を出ていった。 心当たりの場所……ブラネの墓前。 しかし、やはり愛しい黒髪の少女はいない。 そろそろ本気で疲れてきたジタンは、とりあえず城に戻ることにした。 城の入り口を偵察してみると、スタイナーはさすがにもういない。 喜び勇んで中へと潜入すると。 「あ、ジタンアルね!」 クイナに呼び止められた。 「何?」 「ちょっと、料理の味見をお願いしたいアル」 「オレ、今急いでるんだけど……」 「さ、来るアル!」 クイナは怪力でジタンを引っ張って厨房まで連れ込む。 ジタンはもう、すっかり諦めモード。 「新しい料理を作ってみたアル」 「あ、そ。ご苦労なことで」 「当たり前のことアル。これがワタシの仕事アルからね」 クイナは大きな鍋から怪しげな料理を盛ってきて、得意げにドンっ、と置く。 ……。 「あのさ、クイナ」 「何アルか?」 「う〜んとさ。このヒゲって……」 「山ブリ虫アル」 「う、やっぱり。この料理って、もしかして……」 「エーコに教わったアル。マダイン・サリのレシピで作った山ブリ虫のシチューアルよ」 ジタンはげんなりしてクイナを見た。 「オレ、ブリ虫はちょっと……」 「嫌いアルか?」 「嫌いって言うかなんて言うか……」 「ダガーは美味しいって言ったアルよ」 その瞬間、ジタンはがたっと立ち上がった。 「ダガー、いたのか?」 「さっきまで、ここにいたアル」 「今は?」 「部屋に戻ったアルよ」 よっしゃ! ジタンは飛び出していってしまった。 「ジタンは、やっぱりダガーが一番好きアルね〜」 クイナはお尻を振り振り、もう一つの鍋の中身を確認した。 ダッシュ一番ダガーの部屋の前まで来たとき、再びベアトリクスに会った。 「ジタン殿」 呼び止められる。 「ダガー中にいる?」 「ええ、おられますが」 よし、とばかりに扉を開けたとき。 パンパンパン! クラッカーの鳴り響く音がした。 ―――え? 何だ? びっくりして目を凝らしてみると。 「ジタン、ハッピー・バースディ!」 と、拍手する仲間たち。 なぜか、みんな勢揃いしていた。 エーコ。さっきまで酒場で会っていたフライヤとサラマンダー。 ビビの子供たち、スタイナーまで。 もちろん、ずっと探しまわっていたガーネットも。 「ダガー!」 思わず非難がましい声で呼ぶ。 「ずっと探してたんだぜ、オレ」 ガーネットはクスクスと笑った。 「ごめんなさい。パーティの準備をしたくて、みんなに協力してもらってたの」 「パーティ?」 「そうなのだわ!」 エーコがぴょんと前に飛び出して、ジタンの手を引っ張った。 「サプライズ・パーティ! ダガーが発案者よ」 見れば、部屋もそれらしく飾り付けてあるし。 テーブルの上には蝋燭を立てたケーキが置いてあったり。 クイナが作ったのだろうご馳走が並んでいた。 「今日、ジタン誕生日でしょ?」 いまいち事態の呑み込めていない顔を覗き込み、ガーネットは尋ねる。 「え、そうだけど……」 「だから、みんなでお祝いしようと思ったのよ」 「さ〜、主役も来たところで、さっそく始めましょ!」 エーコが大張り切りで宣言した。 その後、他の料理を運んできたクイナも合流し、仲間たちだけの誕生会が始まった。 本人は自分の誕生日などすっかり忘れていたので、まさに青天の霹靂、寝耳に水だったのだ。 「いつ気付かれるか冷や冷やしたがのう」 と、フライヤは笑いながら言う。 「ダガーの部屋まで来たときはびっくりしちゃったのだわ。うまく追い返せたけど」 と、エーコ。 「で、どこからどこまでが協力者なわけ?」 とジタンが聞くと、ガーネットは楽しげに笑い出した。 「あなた、わたしを探しながら誰と話したの?」 「えっと、ベアトリクス―――はそうだよな。スタイナーのおっさんは?」 「自分も知っていたのである」 と、スタイナーは言う。 「陛下のためなら、たとえ針のむしろを歩けと仰せになっても自分は……」 「わたしはそんなこと言わないわ、スタイナー」 長くなりそうだったので、ガーネットは途中で止めた。 「それから?」 「えっと……ルビィの所にも行ったぜ?」 「それで、お芝居を見てきたんじゃない?」 ガーネットが言うと、ジタンは、うっ、と詰まった。 「じゃ、ルビィも?」 にっこり笑う恋人に、ジタンはがっくり項垂れた。 「ビビの子供たちも協力してくれたし……」 「僕たち、おねえちゃんに言われたとおり、ジタンとたくさん遊んだよ!」 と、一人が代表して告げた。ガーネットはにっこり微笑んでから、 「あと、トット先生には、もしあなたに会ったらなるべく長く引き留めて、ってお願いしてあったの」 「う、確かに」 「それから、フライヤとサラマンダーに、クイナもね」 「ジタンの帰りが早かったから、ワタシも一肌脱いだアル」 クイナが胸を張ると、フライヤがしまったという顔になった。 「やはり、少し早かったか」 「あら、大丈夫よ。ちょうどいいくらいだったんだけど、ジタンが思ったより足が速くて」 ガーネットは可笑しそうに笑った。 「そうだわ、クイナ。シチューは?」 「出来てるアルよ。ジタンは食べなかったアル」 「やっぱりね!」 と、これはエーコ。 「ジタンがブリ虫嫌いなこと、エーコ知ってるんだから」 得意げな顔で言うと、エーコはガーネットと笑い合った。 「それで、ベアトリクスに、あなたが部屋の前まで来たら知らせてくれるようにお願いしていたの」 「じゃ、全部仕組まれてたってことかぁ―――」 はぁ、とジタンは溜め息をつく。 「そういうこと! ねぇ、びっくりした?」 ガーネットに問われ、ジタンはうんうんと頷いた。 「びっくりした」 「怒っちゃった?」 「怒ってなんかないさ。嬉しいよ」 「本当?」 黒い瞳でじっと見つめてくるガーネットを一瞬抱き締めると、ジタンはこっそり耳打ちした。 「二人っきりのが嬉しかったけど」 結果、真っ赤になったガーネット。 すっかり調子を取り戻したジタンは、スタイナーに部屋中追いかけ回されながら戯けていた。 ……というわけで、サプライズ・パーティは大成功でした♪ Happy Birthday Zidane!! -Fin- 心を込めて、ジタンの誕生会企画にとプレゼントさせていただきました・・・が。 はたしてこんな駄作をお送りしてよかったのか。 リュートさん、さぞかしご迷惑でしたでしょう(;;) 姫の計画通りアレクサンドリアを駆けずり回るジタン少年でした。 2002.9.8 |