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「んじゃ、今日もアジトに来るのか?」
 ジタンは、幾分呆れたように傍らの少女にそう話しかけた。
 夏の風がリンドブルムの町を吹き抜けていく。
 少女は肯いた。
「変わってるよなぁ、ジェイニー。アジトなんて何が楽しいんだ?」
「いいじゃない、そんなこと」
 少女は俯いて恥ずかしそうに目を細めた。
 それにどんな理由があるのか、この時のジタンにはよくわからなかった。
「まぁ、別にいいけど」
 エアキャブが劇場街に到着すると、少女は嬉しそうに駆け出していく。
 そんな風に笑っている彼女は可愛かったし、嬉しそうにしている彼女を見るのは楽しかった。
 だから、深くは考えなかった。
 そこにどんな理由があるのか、など。


「うち、あの子嫌いや」
 ルビィはキッパリそう言った。
「何で?」
「何でもや。もう、連れて来んでよ」
「だってさ、ジェイニーが来たいって言うんだからしょうがないだろ?」
「知らんわ! うちが迷惑や、って言うてんねん」
「俺もちょっと好きじゃないっス」
「なんだよ、マーカスまで!」
「オイラは好きずらよ。可愛くて花みたいな女の子ずら」
「やっぱり、シナは話がわかるよなぁ〜! ……でも、ジェイニーはオレのカノジョだからな!」
「それはわかってるずら」
「あ〜、もう。話が逸れとる! とにかく! デートなら外ですればええやんか、ジタン。わざわざアジトなんか連れて来んといてよ」
「ちぇ、ルビィのケチ。ヒガミ女〜」
 ……暴言を吐いたジタンがその後どうなったかは、恐ろしくて口にも出来ない。


 そんなわけで、次の日、ジタンは例の少女にこう提案した。
「なぁ、今日は二人っきりでデートしようぜ?」
「デート?」
 少女は首を傾げた。
「そ! いっつもアジトばっかりじゃ色気もないし」
「……その、ジタン」
「何?」
「デートって、恋人同士がするものでしょう?」
「そうだよ! オレ、ジェイニーのこと、好きだから。だからデートに誘ってるのさ」
「あの、ごめんなさい、ジタン。私、ジタンと恋人同士にはなれないわ」
「―――え? なんで?」
 驚いた目のジタンに問われ。
 少女は俯いたまま、苦しげに言った。
「好きな人がいるの」
「……誰?」
 聞きたくないような気もしたが、やはり聞かずにはいられないかった。
 少女は聞き取れないほどの小声で、そっと告げた。
「私、ブランクのことが好きなの。ずっと、ずっと好きだったの」
 へ?
 と言おうとした口からは、しかし声は出なかった。
「だから、ジタンとは付き合えない。ごめんなさい」
 トクン。
 心臓が揺れ動く音がする。
 頭の中は渦が捲くように混乱していて。でも、出てきた言葉は、
「そっか、わかった」
 明るい声で一言だけ言って、「じゃぁ」と、踵を返して走り去った。








 居心地が悪かった。

 こんなの初めてで、どうしたらいいかなんてわからなかった。

 いつもと違う、胸の痛み。

 負けたことが悔しいとか、そんなんじゃなくて。

 ただただ、気まずくて、居心地が悪い。

 オレって、どうしてここにいるんだろう?

 オレってどこから来たんだろう?

 ブランクと、本当に仲良かったのか?

 そう思ってたのって、もしかしてオレだけかも?

 違う、そうじゃなくて。

 今まで、一体どうやって話してたんだろう。

 夜通し話してボスに叱られたことまであったのに。

 どうやって、目を合わせてたっけ?

 いきなり避けたりして、きっと気を悪くする。

 でも、もうどうしたらいいかなんて、わかんない―――




 だから、ブランクの親がどこにいるのかわかった時。

 必要以上に動揺した。

 オレとあいつは同じだったのに。

 なんだか、急に遠く遠くなった気がした、から。







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