<2> 「んじゃ、今日もアジトに来るのか?」 ジタンは、幾分呆れたように傍らの少女にそう話しかけた。 夏の風がリンドブルムの町を吹き抜けていく。 少女は肯いた。 「変わってるよなぁ、ジェイニー。アジトなんて何が楽しいんだ?」 「いいじゃない、そんなこと」 少女は俯いて恥ずかしそうに目を細めた。 それにどんな理由があるのか、この時のジタンにはよくわからなかった。 「まぁ、別にいいけど」 エアキャブが劇場街に到着すると、少女は嬉しそうに駆け出していく。 そんな風に笑っている彼女は可愛かったし、嬉しそうにしている彼女を見るのは楽しかった。 だから、深くは考えなかった。 そこにどんな理由があるのか、など。 「うち、あの子嫌いや」 ルビィはキッパリそう言った。 「何で?」 「何でもや。もう、連れて来んでよ」 「だってさ、ジェイニーが来たいって言うんだからしょうがないだろ?」 「知らんわ! うちが迷惑や、って言うてんねん」 「俺もちょっと好きじゃないっス」 「なんだよ、マーカスまで!」 「オイラは好きずらよ。可愛くて花みたいな女の子ずら」 「やっぱり、シナは話がわかるよなぁ〜! ……でも、ジェイニーはオレのカノジョだからな!」 「それはわかってるずら」 「あ〜、もう。話が逸れとる! とにかく! デートなら外ですればええやんか、ジタン。わざわざアジトなんか連れて来んといてよ」 「ちぇ、ルビィのケチ。ヒガミ女〜」 ……暴言を吐いたジタンがその後どうなったかは、恐ろしくて口にも出来ない。 そんなわけで、次の日、ジタンは例の少女にこう提案した。 「なぁ、今日は二人っきりでデートしようぜ?」 「デート?」 少女は首を傾げた。 「そ! いっつもアジトばっかりじゃ色気もないし」 「……その、ジタン」 「何?」 「デートって、恋人同士がするものでしょう?」 「そうだよ! オレ、ジェイニーのこと、好きだから。だからデートに誘ってるのさ」 「あの、ごめんなさい、ジタン。私、ジタンと恋人同士にはなれないわ」 「―――え? なんで?」 驚いた目のジタンに問われ。 少女は俯いたまま、苦しげに言った。 「好きな人がいるの」 「……誰?」 聞きたくないような気もしたが、やはり聞かずにはいられないかった。 少女は聞き取れないほどの小声で、そっと告げた。 「私、ブランクのことが好きなの。ずっと、ずっと好きだったの」 へ? と言おうとした口からは、しかし声は出なかった。 「だから、ジタンとは付き合えない。ごめんなさい」 トクン。 心臓が揺れ動く音がする。 頭の中は渦が捲くように混乱していて。でも、出てきた言葉は、 「そっか、わかった」 明るい声で一言だけ言って、「じゃぁ」と、踵を返して走り去った。 居心地が悪かった。 こんなの初めてで、どうしたらいいかなんてわからなかった。 いつもと違う、胸の痛み。 負けたことが悔しいとか、そんなんじゃなくて。 ただただ、気まずくて、居心地が悪い。 オレって、どうしてここにいるんだろう? オレってどこから来たんだろう? ブランクと、本当に仲良かったのか? そう思ってたのって、もしかしてオレだけかも? 違う、そうじゃなくて。 今まで、一体どうやって話してたんだろう。 夜通し話してボスに叱られたことまであったのに。 どうやって、目を合わせてたっけ? いきなり避けたりして、きっと気を悪くする。 でも、もうどうしたらいいかなんて、わかんない――― だから、ブランクの親がどこにいるのかわかった時。 必要以上に動揺した。 オレとあいつは同じだったのに。 なんだか、急に遠く遠くなった気がした、から。 |