<おまけ>



 ジタンは、恐る恐る入り口からアジトの中を覗き込んだ。
 ――――う。
 ぴゅっと顔を引っ込める。
 しかし、そんなことで「ん? 見間違いか」と見逃してくれるはずもなく。
 バクーはズカズカと歩み寄ってきた。
「ジタンか」
 びくっ。
「おめぇ、どの面引っ提げて帰ってきやがった」
 問答無用。
 襟足を掴まれて簡単に持ち上げられると、アジトの中へと運び込まれる。
「わ!」
「へっ、近所迷惑だからな、中でやる。おら、そこに立て」
「ボス―――」
「言い訳は聞かん。歯ぁ喰いしばれ!」
 う。
 ジタンはぎゅっと目を瞑った。


 騒ぎを聞きつけてタンタラスの連中が居間へ駆け下りてきたところ。
 彼らは、拳を回してニッカリと笑っているバクーと、壁にもたれて伸びているジタンを目撃した。
 ……。
 ――――!?
「ジタン!」
 全員、弾かれたように彼の元へ駆け寄る。
 それと入れ替わりに、バクーはまだ笑いながら自分の部屋へと引き上げていった。
「おい、大丈夫か?」
「――――ってぇ。マジやりやがった、あのオヤジ……」
 ジタンは頭をさすりながら起き上がった。
「アホやなぁ、当たり前やろ。黙って出てくなんて、いくらボスでも怒るわ」
「そうっスよ。ボス、心配してたっス!」
「そうずら、みんな心配してたずら」
 ジタンは仲間の顔を見渡した。
「―――へへ、ただいま」
 照れくさそうに小声で呟く。
「ただいま、やないわ、アホ。ほらぁ、埃だらけになってもうて。しょうがないんやから。あんたら、お風呂の準備」
「はいっス!」
「しょうがないずらね〜」
「まったくだ」
 と、男三人は風呂場へ向かった。
「ジタン、あんたどこほっつき歩いとったん?」
「ん―――いろいろ」
「いきなり出てったから、ホンマにみんな心配してたんやで」
「……うん」
「特に、ブランクな」
「え?」
 ジタンは顔を上げて目を丸くした。
「あんたが出てってしばらくしてから、ボスがあんたたちの部屋のあんたの荷物、全部片づけぇってブランクに言うたんやけど。ブランクは絶対帰ってくるからって、そのまんまにしておいてん。片づけて広う使うたらええのにってボスは言うたんやけどね、聞かへんかった」
「―――そなの?」
「そうやで。あんたが帰ってきたとき居場所がなかったら困るやろうからってな。ブランク様様やろ」
「――――」
 ジタンは黙って俯いた。
 部屋の戸口にブランクが現れて、「ルビィ、ちょっと」と、席を外すように頼む。
「ほな、うちはお風呂の湯加減でも見てこようかな」
 ルビィはそそくさと部屋を出ていった。
「―――ジタン」
 ブランクはジタンの側まで歩み寄り、腰を屈めた。
 何となく気まずくて、ジタンは顔を背けた。
「―――オレのこと、嫌いになったと思ってた」
「は? 俺が?」
「うん」
「なんで」
「……だって、オレ、お前避けてたから。そのまま飛び出しちゃったから。きっと気を悪くしたと思ったんだ」
「――――ああ、それか」
 ブランクは手近にあった椅子を引いて座った。
「あれは、すぐに理由がわかったからさ」
「―――え?」
 顔を上げたジタンに、ブランクは何と言ったらいいかと思惑していた。
「え―――っと、まぁ、いろいろあってだな。お前が俺を避けてた理由はわかったんだよ」
 そういうことか、とジタンは溜め息をついた。
 ―――あの子、ブランクに告白したんだ。
「どうしたって避けたくなるよな、当然。あんなの―――利用されたみたいでさ。でも、俺はそういう奴、嫌いだから」
 ジタンは俯いたまま呟いた。
「―――オレ、別に。フラれたの気にしてたわけじゃないんだ」
 ブランクが小首を傾げる。
「でも、出てったのってそのせいだったんだろ?」
「違う!」
 ジタンは強く首を振った。
「……ごめん、ブランク。気にしてただろ?」
「そうでもないぜ」
「あの……さ。また―――仲間って言ってくれる?」
 ブランクは二、三度瞬きすると、椅子から立ち上がってジタンの目の前に立った。
「当たり前だろ? 俺とお前はず―――っと、これまでもこれからも、未来永劫仲間だよ」
 と言うと、右手を差し出す。
 ジタンは顔を上げ、「え?」とブランクを見た。
「仲直り……ってのとはちょっと違うけどさ。もう一回、仕切直して友情の誓い」
 しばらくまじまじと茶色い目を見ていたジタンは、やがて頷いた。
「うん!」
 差し出された手を握り締める。
 と。
 ブランクは思いっきりその手を引っ張った。
 バランスを崩して、ジタンは再び尻餅を付く。
「痛ってぇ〜! ブランク!」
「へへ、お約束」
「あったまきた!」
 ぴょんっと立ち上がってブランクを睨む。睨み合った二人は、やがてどちらからともなく笑い出した。

 ルビィは戸口の影でこっそりと笑みを漏らし、小さな吐息をつく。
 よかったよかった、と、彼女は肩を竦め、風呂場の方へと去っていった。



 ちなみにこの一年ちょっとで、みんなの背が自分の伸びた分よりも伸びていたことを知ったジタンが大きな衝撃を受けるのは、この直後のことである。



-Fin-



大丈夫よ、ジタン。このあと君の背はよく伸びるからね〜(笑)
ということで、ご静読(?)ありがとうございましたm(_ _)m
ホントに、スランプ入ってから続き書いたので、
なかなかマジで駄作になってしまって申し訳なかったです(_ _;)
2002.10.2




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