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 部屋へ戻ってみると、ドアは子供一人分くらいの幅で開いたままになっていた。
 そっと中を覗くと、ガーネットは赤ん坊と昼寝中。
「あらら。母さん寝てるのか」
「しー」
 ジタンの頭の上で、肩車されたエメラルドは唇に人差し指を当てた。
「悪い悪い。そうだよな、起こしちゃ可哀想だもんな」
 小さな声でそう囁くと、エメラルドはにっこり微笑み、コクリと頷いた。
 ジタンは、エメラルドを肩車したまま、寝台の側へ静かに歩み寄った。
 それは、とても美しい光景だった。
 穏やかな日差しが窓からこぼれ、ベッドで眠る小さな赤ん坊とその母親を、ブランケットのように柔らかく包み込んでいた。
 そして、それを見つめる優しい瞳。
 ジタンは、自分がその美しい光景の内の一つであることを知った。
 少しくすぐったい、それでいてとても暖かい気持ちになった。


 やがて、ガーネットはふと目を覚ました。
「ジタン?」
 と、彼女は小さく夫の名を呼び、その肩に乗ってご満悦の娘をまじまじと見つめた。
「……どうしたの?」
「エミー、部屋から出てたぞ」
「まぁ!」
 ガーネットは口元に手をやり、目を見開いた。
「もしかしてそっちまで……?」
「そうそう。プルート隊の控え室に入り込んで、わんわん泣いてたよ」
「まぁ、エミーったら!」
 ガーネットはベッドに座ったまま、腕を伸ばして、夫から娘を受け取った。
「おとーさまが、おむかえにきてくれたの!」
 彼女は、黒い瞳をキラキラさせながら、キラキラと笑った。
 ガーネットは、まぁ、と小さくため息を漏らし、娘の黒髪を撫でながら、
「お父さまにお迎えにきてもらって、嬉しかったの、エミー?」
「はい!」
 満面の笑みで答える娘。
 ガーネットはこっそりジタンの顔を覗き込んだが、やがて堪えられずに笑い出した。
「もう、ジタンったら! そのまま溶けちゃいそうな顔してるわよ」
「え?」
 と、思わず顔に手を当て、困った顔をする。意味がわからず両親の顔を交互に見比べている娘に、ガーネットは笑いかけた。
「お父さまはね、あなたにメロメロなんですって」
「めおめお?」
 舌っ足らずに首を傾げる娘を、ジタンは思い切り抱き上げた。
「そうだ、父さんはお前にメロメロだ!」
「えみぃ、めろんもすきよ」
「メロン……って、お前な」
 苦笑するジタン。
「でもね、おとーさまが、いちばんだいすきよ♪」
 きゅっと抱きついてくる小さな存在。
 愛しくて、愛しくて、たまらなく愛しくて……


 それ以降、ジタンが子供たちを不用意に避けることはなくなった。
 とは言え、「どう付き合ったらいいのか」という迷宮からは、なかなか抜け出せなかったのもまた事実だった。
 ―――その答えはたぶんどこにも落ちてはいないだろうと、彼は結論付けた。
 きっと、正解なんて元からないのだ。



 今日もエメラルドは、仕事に精を出す父親の隣で歌を歌っていた。
 とてもとてもあどけないけれど、はっきりとわかる、あのメロディを。





-Fin-







ジタン、パパになる(笑)
ジタンはお父さんになるの大変だったと思うんですよね〜。
でも子煩悩だと思う。末娘くらいにはかなり慣れてきただろうと(笑)
父と子、というより先輩と後輩のような関係を築くタイプだったんじゃないかと思います。

ホント言うとあんまり気に入ってないけど、まぁ繋ぎで(いつもそんなん…)
記念日なのにいいのか自分。

2008.9.6




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