秋の澄み切った風がそよぎ、薄い雲間からは季節外れの穏やかな日差しが射し込んでいた。
 光に映える金色の髪がふわりと翻り、合わせて尻尾が揺れる。
 目を細め、その瞳と同じ色を仰ぐ後姿を、彼女は愛しげに眺めた。
 ほんの些細な日常を切り取っただけの、ささやかな一瞬。

  ―――きっと、わたしはこの瞬間をずっと憶えているだろう。

 彼女はそう思った。

 そして予感の通り、彼女はその背中と青空の色を忘れなかった。
 例えそれが苦痛を伴う憧憬となっても、決して忘れはしなかった。
 目を閉じるたびに、彼女は想い出した。
 愛しくてたまらない、あの人のことを。










<1>




 アレクサンドリア貴族議会で極秘の会議が執り行われていたことを、ガーネットはしばらく知らされなかった。
 もっとも、誰かが知らせてくれたところでどうすることも出来なかったのだろうから、知らないで過ごした幸せな時間を思えば、今となってはその方が良かったとも言えた。
 貴族議会が女王の求婚者を募る掲示を発表すると決めたとき、ガーネットはジタンと庭ではしゃぎ回っていた。秋の終わりにしては暖かな日で、はしゃぎながら、二人とも良く笑った。
 あまり笑いすぎて、一生分笑ったのではないかと思うほどだった。
 しかしジタンは笑いながらそれを否定し、「オレと一緒にいたら、毎日笑い通しだぜ」と片目を瞑って見せた。
 本当にそうなるだろうと、ガーネットも笑った。
「オレ、ダガーが笑ってる顔が一番好きだな」
 ジタンはふと、感慨深げにそう告げた。
 ガーネットは突然の告白に、俄かに頬を染める。
「うん、そういう顔もいいな」
 悪戯そうに瞳を光らせ、ジタンは両手の人差し指と親指でフレームを作り、彼女を収めた。
「好きだなぁ、オレ」
「もう、ふざけないでよ、ジタン」
 恥ずかしくなって両手に顔を埋めた恋人に、彼はクスクスと笑いを漏らす。
 わたしもあなたの笑顔が好きなのよ―――とは言えず、ガーネットは顔を隠したまま、同じように笑い出した。
 

 言っておけばよかったのだ。
 もう二度と言えないくらいなら、いっそ。











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