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――――アレクサンドリア宣戦布告か?
           間もなくリンドブルムとの決戦に臨む動き。


 リンドブルムの町に再び号外が流れ、その不穏な響きはジタンの元にも伝わった。
 ―――まさか……自分のせいで?
 アレクサンドリアとリンドブルムが、戦争……?
「おめぇのせいじゃねぇよ」
 バクーはあっけらかんとした口調で言った。
「でも……」
「もともと、アレクサンドリアの貴族はリンドブルムにいい気持ちはしてなかったんだとよ」
「でも、戦争なんて……」
「シド大公が何とかするだろうさ」
 バクーは相も変わらずあっけらかんと言った。
 ―――生きていてはいけなかったのか?
 愛してはいけなかったのか?
 ここにとどまっていたら……。
「出て行くなんて言うなよ」
 察したように、バクーが釘をさした。
「今さらおめぇが国を出て行ったところで、なんにも良くなりゃしねぇど」
 ジタンはぎゅっと拳を握り締めた。
「生きてやれや。お姫さんはそうして欲しがってるんだろうが」
「……うん」
「生きてさえいりゃ、いつか何とかなる日も来るだろうよ」
 そうだろうか。
 あるのは、永遠の別れなのではないだろうか?
 もし、自分のせいで戦争が起こったら……!



***



「お願いです! お願いですから、戦争なんてやめてください!」
 ガーネットは必死に訴えた。
「あの大戦で、アレクサンドリアの国民はもとより、たくさんの罪もない人の命が奪われました。わたくしたちは、そんな犠牲者の方たちに誓ったはずです。二度と、戦争は起こさないと。二度と犠牲者は出さないと!」
「陛下のお心もお察ししますが」
 内務大臣は言った。
「これは、貴族議会が満場一致で決定したこと。一週間後にはリンドブルム国に宣戦布告を致します」
「バルト卿!」
「……失礼を致します」
 内務大臣は呼び止められたにもかかわらず、王の間を去った。
 ガーネットは膝を付いて座り込んだ。
 ―――これでは、何のために王位に就いているのかわからない……。
 もし、戦争などという事態になったりしたら。
 たくさんの人が傷つく。命が奪われる。
 だめだ、そんなことさせるわけにはいかない!
 それに、あの人は……自分の責任だと思うに違いない。
 ガーネットは立ち上がった。
「内務大臣!」
 廊下に飛び出す。
 ちょうど内務室に下がろうとしていた彼は、驚いて振り向いた。
「―――わたくしは、他のことなら何でも、あなた方がおっしゃる通りにします。あなた方が決める方と婚儀を交わしますから……。だから、お願い。戦争だけは避けてください」
 不思議なほどに静かな物言いに、内務大臣は恐れをなした。
 これが、代々アレクサンドリア女王の持つ威厳の篭ったオーラなのだろうか。
 しかも、誰とでも結婚するなどとおっしゃるとは……。
「は、はぁ……。そこまでおっしゃられるなら、その、もう一度議会を……」
 内務大臣がつっかえたように言うと、ガーネットは穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとう」
 内務大臣はこそこそと逃げていった。

 ガーネットは、胸に、今までより更に重い物が圧し掛かったように感じた。
 それは、永遠に逃れることのできない、重み。
 鋭い切っ先で斬られるのと、どちらがましか?






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