<12>
「シド大公から公演依頼だ。アレクサンドリアへ行って欲しいとな」
バクーは団員にそう告げた。
団員たちはその意外な言葉に、驚きを隠せなかった。
「なんでもよ、向こうさんのご機嫌取りらしいな。ま、芝居やって戦争が起きずに済むならいくらでも役に立ちてぇところだ」
「何、演るのん?」
ルビィが尋ねる。
「そうだなぁ、ま、あちらさんの神経を逆撫でするような演目は避けるべきだろうよな」
「じゃぁ、『君の小鳥になりたい』はダメっスね」
と、マーカス。シナも頷く。
「エイヴォン卿はやめた方がいいと思うずら」
「身分違いの恋、ってのが多いからな」
ふぅ、と溜め息をついて、ブランクは言った。
「ジタンは連れてかねぇんだろ、ボス」
「連れて行こうにも、おめぇよ」
バクーはそう言っただけだった。
ジタンはミーティングには出席せず、部屋にいた。
子供の頃から暮らしてきた部屋。
古びた二段ベッドと、椅子がわりの木箱、カーテンも掛かっていない小さな窓。
他には何もない。
月明かりの中で眠りにつき、朝の太陽で目を覚ます生活、だった。
そんな生活の中で抱え続けた孤独。探し続けた青い光。
自分の存在意義は? 自分の生まれた意味は? 自分を愛してくれる人は?
……見つけた故郷に待っていた答えは、あまりにも悲惨なものだった。
全てを終わりにしようと思った。もうだれも殺させないと思った。
―――オレが死んで、それで終わり。
でも、その時彼女は叫んだ。生きろと、死ぬなと。
わたしがあなたを守るから、と。
ドアが開いて、同室のブランクが入ってきた。どうやらミーティングは終わったらしい。
バクーに拾われてこのアジトに来たときから、この部屋で一緒に寝起きした、仲間。
ブランクは何も言わず、ベッドに腰を下ろした。
月の光だけが、淡く煌めいてその存在を示していた。
「アレクサンドリアに行くんだろ?」
ジタンは呟いた。
ブランクが驚いたようにこっちを見上げた。
「頼み事、してもいいか?」
「何だ?」
「手紙を届けて欲しいんだ」
「姫さんにか?」
ジタンは頷いた。
ブランクは溜め息をついた。
「たぶん、直接会うことなんてないと思うぜ?」
「かもな」
ジタンはベットの二段目からひょいっと飛び降りると、持っていた封筒をブランクに差し出した。
「それでも、お前が持ってた方が機会はあるかも知れないから」
ブランクはじっと封筒を見つめ、そして受け取った。
「わかった。絶対渡してみせる」
「無理しなくていいよ」
「いや、渡してみせる」
ブランクは真剣な眼差しで、もう一度強く宣言した。
―――何か考えてるな。
ジタンは微笑んだ。
「ありがとう、ブランク」
やけに素直にそう言ったので、ブランクは一瞬驚いた顔で彼を見つめた。
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