<18>




 二人っきりになった。
 でも、ジタンはまだ立ちつくして、少しも動かない。
 ガーネットは、一歩、歩み寄った。
 その口唇が、愛しい人の名を紡ぐ―――
「ジタン」
 その瞬間。
 再び時は流れ出した。
「ダガー!」
 駆け寄って、抱き締める。
 抱き締め合ったまま、力が抜けてその場にくずおれた。
「会いたかった、ジタン……!」
 ガーネットは存在を確かめるように、目の前にある金色の髪の毛を指で梳いた。
 会いたかった、では簡単すぎるほどの想いを抱えたけれど。
 でも、もうそんなことはどうでもよかった。
 ただ、こうして再び抱き締め合えることが、唯一の真実だった。
 ……離れ離れのうちに流れた時間が戻ってくるような感覚。
 お互いの温もりで、お互いの凍りついた心の氷が解け、圧し掛かっていた心の重荷が解けていく。

 二人は、長い間ずっとそうしていた。



 やがて、ガーネットが口を開いた。
 ごく小さな声で、経緯を説明する。
「……国の人たちがね、貴族の邸宅街に押しかけていって、大変な騒ぎになって。貴族たちは、民意を知って、彼らの意見を聞き入れたの。夜中だったけど、貴族議会が開かれて。朝になって、わたしの部屋に全員で訪れてくれたわ。あなたと結婚してもいい、って」
 ジタンは目を閉じたまま、黙ってガーネットの胸に顔をうずめていた。
「あの事件に関する取り決めは、全部無効とするってことになったらしいの。あなたに下された決定も、リンドブルムとのことも、何もかも。私が気を失ってる間に、全部がまるで元の通りに……」
 ジタンが、初めて顔を上げた。
「今、何て言った?」
「え? ……全てが元通りに―――」
「その前」
 ガーネットは、あ、というように口に手を当てた。
「あの……ね。よく眠れない日が続いたでしょう? なのに、思わずロイヤルシートから舞台まで聞こえるぐらい大声で話したから、酸欠になっちゃったの―――。もう大丈夫よ」
 ジタンの青い目が、じっとガーネットを見つめる。
「本当よ」
 彼女がにっこりと笑うと、ようやく安心したのか、ジタンはまた元のようにガーネットを抱き締めた。
「リンゼン公子、覚えてる? あの方が、いろいろ力を尽くしてくれたみたい。あなたのこと、とても気にかけて心配していたんですって。お父様のリンゼン卿が最初に立ち上がったわ。貴族の政治は所詮、自分たちの利益のためのものだから、それでは国のためにはならないだろうって。貴族議会を通した議案でも、最終決定権は国王が持つことにしてはどうかって」
 ガーネットが口を閉じ、部屋は静寂に包まれた。
 何も聞こえなかった。
 ―――お互いの鼓動以外、何も。


 しばらくして、ガーネットは再び口を開いた。
「ねぇ、ジタン」
 ひっそりと呼び掛ける。
 ジタンは再び顔を上げた。
「あなたの心は……今も変わっていない?」
「どういう意味?」
「つまり―――わたしと結婚したいっていう、気持ち」
 ほんの少しだけ目を見開き、そしてすぐに微笑むと、ジタンは囁いた。
 「当たり前だろ?」―――と。
 ガーネットはこの上なく美しく笑うと、ゆっくりと頷いた。
 目を閉じて、彼女は心の中で呟いた。
 ―――ありがとう。
 ありがとう、ジタン。あなたを愛してる―――。



 不意に光を感じ、ガーネットは目を開いた。
 再び抱き締め合った二人を、窓越しに照らす淡い光があった。
「月が……」
 そう小声で呟き、彼女はまた、目を閉じた。


 寄り添う月の光の中で、恋人たちはいつまでも抱き締め合っていた―――。




-Fin-




・・・完。話もだけど、私も完(何)
えと、ですね。一応「ロミオとジュリエット」風(あくまで)な悲恋な感じにしたくて、
いろいろ頑張ってオリキャラ出ちゃったけどいいやと思いつつ、
結構ハロルド好きかもなどと思いつつ(笑)
なにやら話の筋もないまま思うが侭に書いていったらこうなりました(だからどうしたっ!)
まず、スタイナー。情けない人になっちゃってごめんなさいm(_ _)m
それ以上にジタン。ホントヘタレですんません(苦笑)
と言うか、ホントにヘボいジタガネで申し訳ございません(汗汗)
そしてそして、ブランクとジタンがやたら仲よさげなのは、ひとえに友情です(笑)
ん〜、微妙に何もないのに時間が1年も経っているのがどうも・・・。
でも、2ヶ月ぐらいじゃ盛り上がらないんだもん(爆)

「月光」という題名だけ最初から決まってまして(何)、月っぽい雰囲気で書きたかったのですが。
ダメダメじゃん(苦笑)
「月光」というと、わたし的にはやっぱり、鬼束ちひろさんの「月光」です。
あの歌のサビ部分が、結構ジタンっぽい(何!?)
で、他にもベートーベンの「月光」とか好きです。ドビュッシーの「月の光」とか。
これら一応私の中でこの小説のテーマ曲っぽいですが、
別にBGMにして書いていたわけではないので、あんまり意味はありません(爆)

あ〜、まだまだ言い訳したい気分ですが、長くなるので以下略(−−;)

2002.9.26





2年以上ぶりに加筆修正しました。
とりあえず、あらすじになってた冒頭部分のシーンを追加しました(^^;)
結局、どうしょもなくてもこの作品は私なりにお気に入りの設定だったらしく、
今回リニューアルに伴って加筆することになりました。
バカな子ほど可愛いとか言うヤツなんでしょうかねぇ。。
う〜ん、文章とか場面の運びはやっぱり完、って感じですが(^^;)
ホントはフライヤやサラマンダーもとっても心配していたんですが、
多忙or照れ屋なため登場してくれませんでした(爆)


2004.11.26



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