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真っ直ぐに伸びる銀の閃光に、想いの丈が込められる。
重い。
振り下ろされる騎士剣はずしりと腕に響く重さだ。
「私は、ガーネット女王をお慕いしています」
いくら野戦の経験を積んできた自分だとは言え、気を抜いたら負けるだろう。
隙のない剣術は、やはり古王国の騎士らしかった。
―――と、そんなことを考えているだけの余裕があるのだから、やはりあの大戦を潜り抜けた英雄だけのことはあったのだ。
斬り捨ててしまえば簡単だろうが、そういうわけにもいかなかった。
「貴方が負ければ女王陛下の元を去っていただく」
きっと、良家の息子なのだろう。この男は、こんなところで命を落とすような柄には見えない。
それに……オレが人を斬れば、きっとあいつは泣く。
もう二度と、ガーネットを泣かせたくはなかった。
スタイナーの太い人差し指が、剣の柄を叩いている。イライラしているのだろう。
ジタンは相手の剣を交わしながら、決して自分からは積極的な攻撃を与えずにいた。
そうしながら、どうやって相手に打ち勝つかを思い惑った。
どれくらい経ったろう。
不意に、足音が聞こえてきた。―――それだけで愛しさがこみ上げる、あの音が。
そしてその音の主は微かな悲鳴を漏らし。
「ジタン、ダメ! 傷つけないで!」
また、泣かせてしまう。
ジタンはそう思った。
また、あいつを泣かせてしまう。
酷く哀しい予感だった。
ジタンはハロルドを睨んだ。
オレはまた、あいつを泣かせてしまうのに。
オレはまた、あいつに何もしてやれないんだ。
怯まぬ相手の剣を見据える。
騎士剣が憎い。せめて自分が騎士だったら、あいつを泣かさずに済んだのに。
オレが握ることを許されるのは、盗賊刀だけ―――
やがて石畳の上には騎士剣が堕ち、盗賊刀は主の手の中に残った。
***
ハロルド・リンゼン対ジタン・トライバルの果たし合いは、ねじ曲げられた事実と共に伝えられた。
すなわち、リンドブルム将校とはいっても平民であるジタンがリンゼン卿の一人息子に怪我を負わせたという偽の事実である。
その結果ハロルドは養生を要し、公に姿を出せないのだという。
三年前の二人の再会時には女王の笑顔が戻ったと喜んでいた貴族たちも、年月が過ぎ、身元不明の男と女王が結婚することに一種の嫌悪感を覚えるようになっていた。
だから、この機会を利用しない手はない、ということになったのだろう。
ジタンの罪状は、女王の力の及ばぬ貴族議会で決定されることとなってしまった。
そして、数日後。
知らせは、即刻女王の元へ届けられ。
次の瞬間、ガーネットの体を流れる血が、全て凍り付いたような感覚が襲った。
――――ジタン・トライバルを死罪、もしくは国外永久追放とする。――――
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