Stars and the Moons



 アレクサンドリア城を脱出したジタン、ガーネット、ビビの三人。
 暴走したガルガントに運ばれ、リンドブルム城のすぐ側、ピナックスロックスという渓谷へ投げ出された。
 三人の前に現れたのは年老いた人間のような姿の、雷帝ラムウ。
 ガーネットは、かの幻獣に共にあることを願った。
 ラムウは言った。
 「我が分身の語る物語を集め、組み立て、我に話して聞かせよ」と。


***


 ラムウの分身を探し回るうち、すっかり夜が更けてしまった。
 ガルガントで辿り着いた岩穴の出口辺りにいたモーグリにテントを張ってもらい、三人はひとまず休むことに決めた。
 月明かりが照らす渓谷は幻想的で、泉に反射する光が眩しいくらいだったが、静かな夜だった。


 夜中、ふと目を覚ましたガーネットは、ビビの向こうで眠っていたジタンの姿が見えないことに気付いた。
「―――ジタン?」
 ビビを起こさないようごく密やかな声で呼んでみたが、返事はない。
 ガーネットは起き上がり、テントを出てみた。
「ジタン」
 金色の頭はそこにいた。
 テントの出口にほど近い岩に腰を下ろし、ぼうっと夜空を見上げていたのだ。
「どうしたの? 眠れないの?」
 ガーネットはおずおずと尋ねた。
 何となく、いつもの彼とは違うような雰囲気。城を抜け出したときから、ずっと気になっていたのだけれど。
「……隣、座ってもいい?」
 返事のないジタンに躊躇いながら、ガーネットはすぐ側に腰を下ろした。
 静かだった。
 あまりに静かすぎて、ずっと先で滾々と沸き出す泉の水の音さえはっきり聞こえるかと思うほどだった。
 普段ひっきりなしに喋ったり戯けたりしている少年は、今は固まったように動かなかった。
 ―――胸が騒ぐ。
 痛いような、重いような感覚。
 サァ――――ッと風が吹いて、木々のざわめく音が殊更大きく響いた。
「ダガー」
 小さく呼び掛けられ。
 ガーネットはその顔を覗き込んだ。
「なに?」
「……ごめんな」
 え? と問い返す。
「オレが離れている間にあんなことになって―――ごめん。恐かっただろ」
「―――ああ、ええ……。でも、あなたが謝ることじゃないわ」
 と、ガーネットは頭を振った。
「わたしがわざとあなたから離れたんだもの。あなたは何も悪くないわ」
「でも……」
 不意に腕が伸び、強く抱きすくめられる。
 一瞬体を強張らせたガーネットは、自分を抱き締める腕が震えているのに気付き、驚いた。
「ジタン?」
「―――怖かったのは、オレの方かも」
「え?」
「酷いことされて、きっとすごく傷ついただろうって思って……ダガーがこのまま目を覚まさなかったらって……怖くて―――」
「……ジタン」
 ガーネットは細い腕をジタンの背中に回した。
「大丈夫よ、わたしはここにいるわ」
 しかし、痛いほどに抱き締める力は弱まらない。
「―――確かにね、心の中に穴が空いたように思ったわ。今までずっと側にいてくれた存在だったから……召喚獣たち。でも、スタイナーやベアトリクスやフライヤや……みんながわたしのためにあんなに必死になってくれて、あなたやビビが一緒に来てくれて……。もしラムウがわたしを受け入れてくれたら、きっとまた初めからやり直せるんじゃないかって思うの。もう一度、今度は正しい道へ行けるって―――」
 ガーネットは胸が苦しくなって喋るのをやめた。
 母、ブラネ女王。一体、何が彼女をあんな風に変えてしまったのか。
 どうしても、元の母に戻って欲しい。
「……そうだな」
 ジタンが頷いた。
「―――でも、やっぱり許せない」
 小さく、しかし鋭く放たれた言葉を受け止めても、ガーネットは黙して答えなかった。
 どんなことをされても、たとえ命を奪われても、彼女が母であることに代わりはない。
 ―――最後の一瞬まで、わたしはお母さまを愛するのだろう。

 笑いながら自分を斬る母の姿を、血に染まった瞳で見なければならなかったとしても。


 ガーネットは目前で揺れる金色の糸を見つめていた。
 月明かりに当てられた細い金糸は、ガーネットの心を俄かに掻き乱した。
 静かだった。
 ―――お互いの吐く息が聞こえるほどに。

 ふと。
「へへ、オレって役得?」
 と耳元で、いつも通りふざけた調子の声がする。
 ガーネットは途端に赤くなって憤慨し、ジタンを突き飛ばした。
「―――ってぇ」
 と、岩から見事に転げ落ちたジタンはお尻をさすって立ち上がった。
 ガーネットは自分の腕を自分で抱え、まるでガードするような姿勢で向こうを向いている。
「怒るなよぉ、ダガー」
「怒ります!」
「せっかく久しぶりに会ったんだしさぁ、ちょっとくらいいいじゃん」
「よくありません!」
「―――ちぇ」
 ジタンは木の枝に腕を伸ばし、軽々とよじ登った。
 夜風の吹く中、しばらくそのまま、お互い黙っていた。
 やがて、ふとジタンは言った。
「でも、ダガーが無事でホントによかった」
 その言葉は、刹那、無邪気な響きに思えたけれど。
 なぜかガーネットの心の奥底に、言い知れぬ感覚を残した。
 痛み? 苦しみ?
 光?
 どれも違うような気がする。
 もっと―――そう。もっと暖かいもの。
 冷えた心を包んで、暖めてくれるような―――
「ジタン? おねえちゃん?」
 テントからひょこっととんがり帽子が現れ、少年の声が呼ぶ。
「ビビ! 目が覚めちゃったの?」
「うん。二人ともいないからびっくりしちゃった、ボク」
 ひょこひょこと歩いて、ガーネットの側に立ち止まる。
「何してたの?」
「ほら、月も星も、とても綺麗でしょう? 幻想的よね」
 と、ガーネットは夜空を指してにっこり微笑んだ。
「ホントだ。ボクね、おじいちゃんに、どうして月や星があるのか聞いたことがあるんだ」
「おじいさんはなんて?」
「えっとね、昔に生きた人たちの記憶が星になって光って、夜、子供たちに会いに来るんだって。月は、そんな人たちが迷わないように夜道を照らしてるって」
「そう。……ビビのおじいさんって、素敵な人だったのね」
 ガーネットはビビの頭を撫でながら囁いた。
 一つ頷くと、ビビは大きな欠伸をする。
「あら、ビビったら。眠いんじゃない? ほら、もう寝ましょ」
 手を取って立ち上がると、ガーネットはビビと共にテントへと消えていった。
 心なしか怒ったような顔のまま、ジタンの方には目もくれなかった。
「―――怒らせちまったか」
 後ろ頭を掻きながら、ジタンは一人呟いた。
 ―――ま、いっか。とりあえずは元気そうだしな。
 ジタンは一人頷くと、もう一度二つの月を見上げた。



 時折吹き抜ける夜風に、枝から垂れた尻尾の影が月明かりの中揺らめいていた。
 これから起こる波乱など、まるで知る由もなく―――。


-Fin-




ジタガネ、ゲーム中(笑) この頃からジタガネは急発進していったような気がする。。。
・・・そうか?(ぉぃ)
まぁ、この頃のジタガネなら苦手のラブシーンもないし、楽だわ(何!?)
とは言え、微妙に微妙なジタガネでございました・・・すんませんm(_ _;)m

2002.10.9





Novels      TOP