砂埃の舞う大地。
 青空もない。
 霞んだ太陽を見上げて眉を寄せる、今は言葉を失った少女を見つめて。
 ―――何も出来ない自分が、悔やまれてならなかった。




聞こえるよ、君の声




 クジャに捕まった仲間たちを人質として取られ、ウイユヴェールへ強制的に送り込まれたパーティ。
 現れた守護者の奇襲をかわし、グルグストーンを石碑からはずして、ようやく罠仕掛けの遺跡を後にした。
 訳のわからないところだった。不気味だった。
 なぜ、自分にだけ読める字があったのだろう……

 ジタンは目を開けた。
 夜の闇の中、テントを張って休んでいた一行。
 手を伸ばしても届かないくらいの距離にいる、ガーネット。
 その間には、「姫さまによからぬことをするつもりではあるまいな」と言う騎士殿が、夜通し見張りをする、と豪語したわりに、座ったまま剣を抱き、ぐぅぐぅと鼾を掻いて寝こけている。
 ―――さすがだよな、おっさん。見張りはいいのかよ。
 端の方では大きな体を折るように、サラマンダーが眠っている。
 あっちは、物音一つ立てない。寝息さえ聞こえない。
 ―――生きてんのか?
 取り留めもなく、いろいろなことを考えてしまう。
 クジャに捕まった仲間たちは無事だろうか。
 手離したくなくて、一緒に連れてきてしまった黒い瞳の少女は、心の傷を抱えて苦しんでいる。
 ―――連れて来るべきではなかったかも知れない。
 はぁ、と小さく溜め息をつくと、少し離れたところで寝返りを打つ音がした。
 はっとして起き上がると。
 ガーネットがじっとこちらを見ていた。
「ごめん、起こしたか?」
 ごくごく小さな声で尋ねると、ゆっくりと首を横に振る。
「なんか―――さすがにむさ苦しいよな、このメンツは」
 と、ジタンが苦笑いを浮かべると、ガーネットも笑った。
 鈴の転がるような笑い声は上がらない。
 そして、あの日からずっと、不安や哀しみが混じった笑顔の、まま。
「フライヤとかエーコとか、せめてビビでも連れて来ればよかったんだけどさ。あっちはあっちで何かと心配だろ?」
 だからフライヤには残って欲しかったし、魔法が使えないとなるとエーコもビビもアレだしさぁ、と言い訳を並べ始めたジタンに微笑みかけながら、ガーネットは起き上がってそっと近寄ってきた。
(大丈夫よ、心配しないで)
 と、その目は言っていた。
「ごめん。どうしても残しておけなかったんだ、ダガーのこと」
 ―――傷ついた心で、戦いに駆り出されるのはつらいだろ?
 俯いたジタンに、心配そうな顔をするガーネット。
 微笑みながら、頭を振った。
(わたしは、大丈夫)
 だって、わたしが一緒に行くって言ったんだもの。
 それなのに、迷惑ばかりかけてごめんなさい。

 ガーネットは時折、戦闘中に体が動かなくなる。
 話すことの出来ない彼女には、自分がどうして動けなくなるのか説明できなかったけれど。
 ―――胸が痛くて、呼吸することさえ出来なくなる瞬間が、ある。
 そうなると、自分の番だとわかっていても足が一歩も踏み出せなくて、呪文を唱えることも出来なくなって……
 でも、誰も責めなかった。
 責められないことが、逆に苦しい気がする。
 ……謝ることも出来ない。
 攻撃の手助けがままならなくても、せめて白魔法くらいちゃんと使えたら―――

 剥き出しの腕に走った一筋の傷を、細い指で追う。
 今日の戦闘中、ガーネットがまたも動けなくなってケアルを掛けられなかった傷。
 どうってことないよ、と笑っていたけれど、やっぱり悲しい。怖い。
(ごめんなさい)
 呟きが音になることはない。
 それなのに、ジタンはニッと笑って、頭を振る。
「大丈夫さ。一晩寝れば治っちゃうって」
 ガーネットはじっと、ジタンの目を見つめた。
 ―――いつもそう。
 いつも笑ってる、陽気な瞳。
 いつもみんなを心配して、気を配って。
 そんなの、何てことないよ、って笑う、瞳。
 庇われて傷つくのを見るのが、どれだけ怖いかわかっているの?
 あなたは誰にでも優しくて、真っ直ぐで。
 ―――でも。
 あの時話してくれた、故郷を探す人ってあなたのことでしょう?
 本当は、たくさん孤独を抱えているのでしょう?

 ただでさえひどく思考が暗い方へ動いてしまう時に、ガーネットは言葉にならない思いを心に抱えて俯いた。
 今度は、その顔をジタンが覗き込む。
「なぁ、ダガー。そんな顔するなってば。大丈夫だから」
 しかし、一度睫を震わせると、ガーネットはその瞳から涙を零した。
 ぎくり、とするジタン。
 感情が外に出るのはいいことなのだから、泣くなとは申すな、とフライヤに釘刺されていたのを思い出す。
 ―――じゃぁ、どうしろと?
 テントの端で、サラマンダーがごそりと寝返りを打ち、向こうを向いた。
 ―――げげ、起きてる!
 その背中は、「勝手にしろ、俺は寝ている」と言っていた。
 ……しばし思いあぐねた末。
 ジタンは、細い肩にそっと手を回し、驚かさないように抱き締めた。

 ―――何もしてあげられないけど。
 傍に、いるからさ。



-Fin-



ウイユヴェールの頃のお話。なんかせいにしては珍しく正道ジタガネv(そうか?:笑)
このメンバー、実話ですv ちなみに、フライヤには心配だから残ってもらったのも本当(笑)
なんかメンバームサいと思ったのも本当です(^^;) さぁ、行くか、と思ったらムサかった(苦笑)
ダガーを置いてけないと思ったのも、やっぱり無理させたかな〜、と思ったのも本当でした。
脱獄側の行動があるって知らなかったので、やっぱりお留守番のがよかったかな、と思いましたね。
でも、置いていけなかった・・・(マジ:笑)
よく見たら、ちゃんと「女の子をかばう」装備してましたよ、ジタン( ̄ー ̄)v
・・・なんだかんだ言って、ゲーム中から結構ジタガネなせいでした(笑)

2002.12.1



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