姫祭ウェブリング企画参加作品
おねがい、必ず帰ってきて――!
ガーネット様、お誕生日おめでとうございます――いつも通りの祝辞に、いつも通り微笑んで返す。
今年も変わらず、その日は訪れたのだ。
1801年1月15日。アレクサンドリア女王、ガーネット17世の17回目の誕生日。
日々進む街の復興と共に、国の人々の心も、日々落ち着きを取り戻していた。
そして、その中心には彼らの光、ガーネット女王の姿があった。
人々は知らなかった。
光の存在である彼女の心が、本当は暗闇に支配されていたということを。
城の再建を後回しにしているため、ガーネットは今も仮住まいの部屋に寝起きしていた。
建て付けの悪い窓ガラスが、時折カタカタと冬の風に音を立てる。
しかし、どんなに苦しい暮らしを強いられても、女王は一つも文句を言わなかった。
彼女はいつも願っていた。
アレクサンドリアの復興と、その国の民が負った心の傷が、一日も早く癒えることを。
それ以外のことは何一つ、望まなかった。
それだけに、ガーネット女王は復興の女神のように崇め奉られていた。
国民は、文字通り彼女を支えに生きていた。
それでは、女王は何を支えに生きていたのか?
そのことに考え及ぶだけの余裕は、今の彼らにはなかった。
***
ガーネットはいつも通り礼拝を済ませ、庭に出た。
小春日和の穏やかな陽の光が、殊更眩しく見えた。
例えば、と。
彼女は心の中で呟いた。
――あの人が隣にいてくれたら、他には何もいらないだろう。
見上げた青空に、一瞬だけ金色の風が吹く。
どうしようもなく寂しい時、ガーネットはあの歌を歌った。
あの歌を歌う時だけは、帰ってこない彼が側にいるような気持ちがしたから。
あれから一年。
嘘のように昔のような、それでいて、つい昨日のことのように思い出す、あの日。
あの日の笑顔のまま、彼は彼女の胸の中で生き続けていた。
色褪せることなく、ずっと。
――それでは、王女様。
今から、わたくしめがあなた様を誘拐させていただきます。
そう言って、まるで羽根のように彼女を攫っていった人。
彼女の全てを攫い、その人生の全てを変え、そして、淡雪のように消えていった。
消えてしまうのなら、最初から現れてくれなければ良かった、と。
それでも、ガーネットがそう思うことは一度もなかった。
彼の手を取って、彼女は初めて自分の足で地面に降り立った。初めて大地を踏みしめ、そうして、初めて世界の喜びと悲しみを知ったのだ。
ふわり。
見上げた空から、白く美しいそれは舞い降りてくる。
ガーネットは思わず手を伸ばして、それを捕まえた。
小さな、白い小鳥の羽根。
もう一度空を見上げて確かめてみたけれど、その落とし主は空のどこにも見当たらなかった。
ふわり。
いつかまた、こんな風に彼が現れてくれたら。
光は、再びこの胸に差し込み何もかもを照らしてくれるのだろう。
指先を離れ、風に攫われる白い羽根を目で追いながら、ガーネットは小さく息を吸った。
生きていかなければ。
彼の居ないこの世界を、わたしは。
-Fin-
姫さま、今年もお誕生日おめでとうございますv
今年も何とかお祝いすることが出来て嬉しいです。
姫祭さんには毎回明るくてドタバタした(笑)お話を捧げてきたのですが、
今回は心機一転、ちょっとシリアスな感じでいってみました。
今年は素敵な姫祭ウェブリング企画ということで、
きっとラブラブな素敵イラストや素敵小説が山ほどリングになるはず、ということで
その合間の箸休め、スパイス的な作品になったらいいかなぁ…と自分では思って、
こんな感じに仕上げてみました。
最後に、毎年姫祭を主催してくださるリュートさんにたくさんの感謝とお疲れ様を。
今年もありがとうございました〜!
2008.1.15
|