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「なぁ、あんた好みでも変わったん?」
早足で石畳を行くブランクの後を、ルビィは小走りに追った。
「あんなん、めっちゃ好きなんちゃうの?」
と、後方を指差す。さっきブランクにファンレターを渡そうとした女の子。ちょっと小柄でほよんとした可愛い子だった。
「別に」
「別にって、あんた前からあんなんとばっかり……」
「ほっとけ」
ブランクはますます歩調を速めた。
「あんた何イライラしとんのよ。ここんとこ様子おかしいで」
ルビィは追いかけながらそう忠告した。元々切れやすい性格とは言え、長期戦には向かない奴なのに。
「―――別に」
「もー、ホンマそればっか。あんたがそうイライラしとると、こっちまでイライラしてくんねん。説明責任くらい果たしぃや」
ブランクが足を止めたので、ルビィも並んで立ち止まった。
「……説明、って言ったって」
「初めっから終わりまで、や。順序立ててな。不得意やろうけど」
ブランクは一瞬ルビィを睨んだが、彼女はそんなことで怯んだりしなかった。
「ほら、早う」
まだ文句を言いたそうな顔をしていたブランクだったけれど、やがて観念したように溜め息を吐いた。
「……つまりは」
「うん」
「その」
「何」
ブランクは一度咳払いして仕切り直す。どうにもはっきりしない口調だった。
「つまり……ムカついたんだよ」
「だから何が」
そろそろ焦れてきたルビィの切り替えしは鋭い。
「なんていうか……その」
対照的に、ブランクは歯切れ悪く言葉を継いだ。
「……他の男に、お前のこと全部わかってるみたいな顔されて」
その瞬間、ルビィは思わずぽかんとなった。
「は?」
「まるでお前の外も中身も全部知ってるみたいな言い草されて、なんでかわかんねぇけど無性に腹が立ったんだよ」
ブランクは顔を背けたまま、低い声でそう呟いた。
「……何それ、そんなん……」
あれ? それってもしかして、あの散歩の帰りにこいつと会うて、そんであいつとも会うたあん時のこと言うとるん?
「せやかて、なんで腹なんか」
……あれ?
「なんであんたが」
腹が立った、って?
「そんなん、まるで―――」
うちのこと全部知ってるみたいな顔されて、腹が立ったって、それって。
―――独占欲、やんか。
なんでこの男がうちにそんなん抱くわけ!? ありえへん!!!!
「……とにかく」
ひどく居心地悪そうな顔で、ブランクはぼそりと口を開いた。
「どうしてかわかんねぇけど、そういうことなんだよ」
ブランクはそう締めくくって、また石畳を歩き始めた。
ルビィも慌てて後を追う。
「ちょ、それってどういうこと!?」
「……知るか」
「ちょぉ待ちぃ! あんたそれって、それって結局……」
ブランクの耳が赤くなっている。顔も赤くなっていそうだったが、ベルトと夕日のせいでよくわからなかった。
「……そういう、ことなん?」
「知るかよ」
「なんでよ、自分のことやんか!」
「だからわかんねぇもんはわかんねぇんだよ!」
ブランクが思い切り振り向いて叫んだので、ルビィはぎょっとして立ち止まった。
「理由なんて、その……わかんねぇけど」
それは、突然沸き起こった事実。
―――突然?
それとも、気付かなかっただけ?
「とにかく」
あまりにも、身近すぎたせい?
「気付いちまったもんは仕方ねぇだろうが」
そう一言漏らした瞬間、ルビィの目が急激に剣を含んだ。
「……仕方、ない?」
また言葉を間違えたらしい。そのことに気付くまで、ほんの瞬き一回分だった。
-Fin-
改行祭に出展した「激しくゆるい話。」の続編です。題名までゆるすぎる(笑)
ブランクはたぶん、自分の手の届く範囲は全部把握していないと気が済まないタイプじゃないかなーと。
ジタンが行動先なら、ブランクは思考先って感じがします。
そしてどこまでも鈍感なルビィさん…ありえん。ゆるすぎる(笑)
なんかもうブラルビばっかり書きすぎなので、そろそろ違うもの書いていかないとなーと…。
レギュラー更新ブランクばっかりすぎる(苦笑)
2008.3.16
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