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 その、「ちょっと天然」が、何だか急に面倒くさくなる。


 ブランクを悩ませるライフサイクルが、それだった。

 最初はまぁ可愛いかな〜と思うのに、段々面倒くさくなる。
 はっきり言わずにもじもじやってるのが面倒くさくなる。
 「あのね」と言ったまま、数分黙ってるのが面倒くさくなる。

 ある時急に何かでスイッチが入って、可愛いと思っていたところがどうにも面倒くさくなってしまうのだ。
 それで、態度が非常にテキトーになるらしく―――自覚はないが。
 とにかく、もう飽きちゃったんでしょ、ヒドイ、さよなら、となるのである。
 それが、ブランクの大体のライフサイクルであった。


 今回もそうだった。何かのきっかけでスイッチが入って、もう飽きちゃったんでしょ、ヒドイ、さよなら。
 ―――非常にあっけなかった。
 そして、そのライフサイクルを一回りして戻ってくると、かならず彼の仲間(小憎らしい猿)がそれに気付いて、「お前またかよー!」と言うのである。
 彼の言では「ルビィがカレシと別れると、いつも時を置かずしてあいつもカノジョと別れる」のだった。
 シナは賛同したが、マーカスは気付いていなかった。意外と敏感で、意外と鈍感なのだ。



***



 ルビィが風呂から上がって部屋へ戻ろうとしたら、居間からジタンの大声が響いてきて、彼女は思わず足を止めた。
「げー、ブランクまた別れたワケ?」
 それに対して、ブランクは低い声で何かぶつぶつと言い返したらしかった。
「だってカワイ子ちゃんだったのに〜勿体無い」
「うるせぇ」
「こう、お胸もぽよーん、性格もほよーんみたいな」
 たぶんジタンの振り付きだったのだろう、石頭を殴る音がして、シナがゲラゲラ笑った。
「ちっともお前に似合わない系の」
「人の好みにケチつけんなバカ」
「お前にはこうさ、クールでスレンダーなお姉さんが似合うとオレは思うわけよ」
「 ほ っ と け ! 」
 ブランクが居間から出てくる気配がして、ルビィははっとして身を翻し、慌てて階段を駆け上がった。
 が、ブランクからはその後姿が丸見えである。
 いかにも運動神経鈍そうな身のこなしで、ルビィはパタパタと階段を上っていった。
 ちょっと悪戯心が沸いて、ブランクはその背中に思いっきり
「おやすみ」
 と声を掛けてみた。
 案の定、背中がぎくりとなって振り向こうとし、振り向きざま足を滑らせて、二階の廊下に「うひゃー」という色気もクソもない悲鳴と、どすーんという不穏な音が響いた。
「げ」
 思わず二段飛ばしで階段を駆け上がると、まるで漫画のような格好でルビィが廊下に伸びていた。
「ば、大丈夫かよ!?」
「いだーーっ」
 のろのろと、ルビィは起き上がった。
「鼻打った〜」
「どれ」
 覗き込もうとしたら、ルビィが慌ててタオルを引き寄せ、顔を隠す。
「何だよ」
「だ、大丈夫やし! おおきに!!」
「見せろって、擦りむいたんじゃねぇの?」
「へ、平気!!!!」
「何だよ、オイ」
 ……何って。


 どすっぴんどすえ〜。


 そのまま後ろ手に自分の部屋のドアを探し、もぞもぞと立ち上がって、ノブを回した。
「おやすみブランク!!!!」
「……おやすみ」
 がちゃり。ドアが閉まると共に、ルビィは盛大に溜め息を吐いた。
 あぶねぇあぶねぇ。
 こんな至近距離でどすっぴん顔を見られるくらいなら、死んだ方がマシだ。
 歴代の彼氏にだって見せたことないねんで。こればっかりはうちも譲れん。
 ベッドに腰を下ろして、ようやっと気が緩んだら、思い出したようにあちこちが痛み出した。
「う……嫌な予感」
 小さな鏡で見ると、ブランクの言うとおり、見事に鼻を擦りむいていた。
「最悪……」
 女優の顔に何晒しとんじゃ廊下ーっ!!






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Photo:アトリエ夏夢色 様   _