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案の定、翌朝バクーからお小言を頂戴した。
ただ、絆創膏を剥がしてみたら、思っていたよりも傷はかなり快復していた。ブランクの似非薬も意外と役に立つ。
……何が入ってるのかちょー怖いけど。
鼻の頭に絆創膏、なんてものすごく格好悪くて、ジタンには「オレのお株奪われた!」とか言われるし、近所の子供に「やーい」とからかわれるし、でも剥がしたらもっと格好悪いので、ルビィは数日をそれで我慢した。
ブランクの薬はよく効いて、傷はあっという間に良くなっていった。
「痕にはならなそうだな」
まじまじと傷を確かめて、ブランクはそう太鼓判を押した。
「よかった〜ぁ」
鼻の頭を擦りむいたコーネリア姫。考えただけでも身震いだ。
第一、そんなコーネリア姫じゃ怪しさ満点すぎる。
自分でも鏡で確かめる。確かに、傷はかなり綺麗に消えていた。
「どうせ厚塗りするなら関係ねぇんじゃねぇの?」
ブランクが意地の悪そうな笑いを含めて、そう言う。
「……」
―――この男は、いつも一言余計だ。
ルビィは反射的に、手近な何か(実は硝子の灰皿……サスペンスとかに出てくる奴。どうしてかいつも中身が空)を掴んで殴りかかった。が。
受け身の態勢で待っていたブランクは、攻撃が来ないので「おや?」と顔を上げた。
「……今日は、感謝しとるからやめとく」
灰皿をテーブルの上に戻して、ルビィは小さく息を吐きながら膝を撫でた。膝頭の擦り傷はかさぶたになって、まだそこに残っていた。
―――何だよ、やけに殊勝だな。
「まだ痛いのか?」
「うんん、痒いくらい」
「剥がさない方がいいぞ」
「わかっとる〜」
なんだなんだ。ちょっと調子が狂って、ブランクは頭を掻いた。
「まぁ……治って良かったな」
「うん、おおきに」
なんだなんだなん(以下略)
あ、わかった。そんなに痕が残るのが嫌だったのか。そりゃそうだ。なるほど。
ブランクは一人で納得して、救急箱を定位置に戻してから「先に寝るぞ」と呟いた。
「おやすみ〜」
ルビィは膝を抱えたまま、ひらひらと手を振っただけだった。
ちょっと、気味が悪かった。
だって、本当に感謝していたのだ。
何をやっても上手くいかない時に、ひょいっと手を貸してくれたようなものだった―――本人には自覚がなかったとしても。
何だかもう、自分なんて価値のない人間なんじゃないか、と思った時に、「お前は期待されてる」と励まされた―――本人には自覚がなかったとしても。
運動音痴で勝手にずっこけたのに(しかも立ち聞きしてたのまでバレバレ……たぶん)、傷の手当をしてくれた。わざわざ起き出して来てまで―――わからん、たまたまかもしれんけど。
ものすごーくものすごーーーく自信のないすっぴん顔を見られたけど、特にからかわれなかった―――あ、これは優しさかな。
結構優しいトコあんねやな、アレで。と、ルビィは小さく呟いた。
本人には自覚がなかったとしても。
せやけど、あの超ド級の鈍感っぷりが治らなかったら、また次の恋人ともすぐ別れる羽目になるで。
ルビィは一人クスクスと笑った。ふん、いい気味(ひどい)。
ちなみに、その「次の恋人」が実は自分自身だったなんて、その時の彼女には全く思いもよらないことなのだった。
-Fin-
改行に投下しようと思ったはいいけど、これは…ちっとも激しくない orz
ということで、激しくゆるい話と相成りました。。苦肉の策(笑)
最初は自分ちの設定で書こうかな〜と思っていたのですが、結局微妙にパラレルになりました。
ブランクがルビィのケガを手当てしてあげるのが私的萌えだったりします…えへへv(爆)
2007.8.12
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