「ジタン、何してるの?」
「よぉ、ビビ。ん、これか? これはな、宿り木を飾りつけてるのさ」
「宿り木?」
「そ。この木には魔法が詰まってるんだ」
「えっ! どんな魔法なの?」
「へへっ、それはな……」



The Mistletoe



 今日はクリスマス・イヴ。
 FF9オールキャストもパーティをすることになりました♪
 大きなクリスマスツリーを飾り、たくさんのご馳走を用意して。
 そして、会場の入口にはジタンが張り切って飾りつけた宿り木。その下に立ち止まった間は、誰とでもキスすることを許されます。
 もちろん、ジタンの目的は愛しいコイビトとキスすることです。
 だから、ジタンの目はさっきからずっとガーネットばかり追いかけています。
 が、ガーネットは会場のセッティングに大忙しで、なかなか立ち止まる気配がありません。
 入口付近で待ち伏せしても、宿り木の下を0.1秒で通り過ぎてしまうので、キスしている暇がないのです。
 ―――まぁ、まだまだこれからチャンスはある!
 と、ジタンは決心を新たにするのでした。


 ドアベルが鳴り、最初に現れたお客様はスタイナーとベアトリクス。
 ベアトリクスは、大きくて立派な七面鳥を持ってきてくれました。
「ベアトリクス、こっちでお皿に盛り付けましょう!」
 と、ガーネットがベアトリクスをキッチンへ連れて行ってしまいました。
 宿り木の下には、スタイナー一人。
「……ちぇ」
「何がであるか」
「頭の上見ろよ」
 スタイナーは上を見上げたまま、三十秒くらい考えていましたが。
「貴様! 何を企んでおるか――――っ!」
「うわ、おっさん何怒ってんだよっ!」
 と、追いかけっこを始めました。これが始まると、スタイナーはとてもしつこいのです。
 ジタンはいいことを思いついて、キッチンに逃げ込みました。
 ちょうど七面鳥をお皿に盛り付けていたベアトリクスとガーネットは、飛び込んできた二人にビックリ!
「ちょっとジタン、何やってるのよ」
「何って、おっさんが追っかけてくるから、仕方なく逃げてるんだろ?」
「何をぉぉぉ?!そもそもは貴様があのような―――」
「スタイナー」
 その時、ベアトリクスが怖い声でスタイナーを呼びました。
 ぴたっと立ち止まるスタイナー。
「な、何であるか?」
「今日はガーネット様にご招待いただいたパーティです。その場であなたはそのように無作法なことをなさるのですか?」
 迫力満点なのです。
 おかげでジタンはスタイナーの追求から逃れることができましたが、その迫力に一瞬で凍りかけたのは言うまでもありません。
 ―――よかった、ダガーが優しい女の子で。
 と思ったのも。


 次にドアベルを鳴らしたのは、シド大公一家でした。
「ジターン! ダガー! 来たのだわ!!」
 と、一番に飛び込んできたのはエーコ。
 しかし、応接間にはビビしかいません。
「あ、エーコ! いらっしゃい」
「何よぉ、お出迎えはあんただけ?」
「ジタンとスタイナーのおじちゃんもさっきまではここにいたんだけど……」
 ビビは困ったように帽子を直しました。
「ダガーはどこ?」
「おねえちゃんは台所でお料理の準備をしてるよ」
「じゃぁ、エーコも手伝いに行ってくるのだわ! お父さん、お母さん、ここで待ってて!」
「あらあら、大丈夫なの?」
 ヒルダ妃は心配そうに娘を覗き込みました。
「エーコ、お料理は得意なの♪」
「じゃぁ、これをガーネット姫にお渡ししてね」
 ヒルダ妃は、パーティにと持ってきたお手製のクッキーをエーコに渡しました。
「は〜い」
 エーコが走っていった台所から、ベアトリクスが入れ替わりに出てきました。
「シド大公にヒルダ妃ではありませんか。お久しぶりです」
「久しぶりじゃの、ベアトリクス」
「お久しぶりです」
 二人ともにっこりと笑いました。
「さぁ、どうぞこちらへお座り下さい」
 七面鳥の大きなお皿を運びながら、ベアトリクスは二人を部屋へ案内しました。
 少し待つと、今度はスタイナーとジタンもお皿をたくさん運んできました。
「私たちも手伝った方がよろしいかしら?」
 ヒルダ妃がジタンに尋ねると、
「いや、ダガーが自分でやるって張り切ってるしさ。人は足りてるから大丈夫」
 と言って、しかしまたキッチンへ戻っていきました。
 スタイナーは運んできた皿をテーブルに並べ終わると、ベアトリクスの隣に座ります。
 両夫妻が話に花を咲かせていると(間に挟まって、わからないなりに会話を聞いていた小さな存在もいましたが)、再びドアベルが鳴りました。
「は〜い」
 と、キッチンからガーネットの声が返事し、ジタンが出てきてドアを開けました。
「「「「メリー・クリスマス!」」」」
 パンパンパン!
 クラッカーの音が鳴り響き、玄関に火薬臭い煙が蔓延しました。
「うお、何するんだよお前ら!」
 と、ジタンは髪に絡まった細いリボンを毟り取ります。
「よぉ、ジタン」
「お招きおおきに」
「ホントに来ちゃったっスけど……」
「これ、お土産ずら」
 ほい、と渡されたのは南ゲート名物『まんまるカステラ』50個入りの包み。
「クリスマスに誰がこんなもの食うんだよ〜」
「おいらが食べるずら」
「まぁ、みんな食うだろ」
 とブランクはケロリ。ルビィが殺気立って
「何、ジタン。うちらが用意したもんにケチつける気ぃ?」
 と言えば、ジタンはそれ以上反論できるわけもありません。
「う……はいはい、ありがとうござんした」
 タンタラス軍団は「邪魔するで〜」とか言いながらズカズカと家へ。
 ふと。
「あ、そこで待て!」
 ジタンがストップをかけました。
「何だよ」
「はい、ブランクとルビィ、頭の上見てみ?」
「「ん?」」
 見上げた先には宿り木。
「「げ」」
 途端に、二人は気まずそうにお互いそっぽを向きます。
「アホやん!」
 ルビィは宿り木の下から逃げようとしましたが、ジタンが捕まえて離しません。
「ほらぁ、キスキス」
「兄キ、観念するっス!」
「ヒュ〜、オアツイずら」
「うるせぇっ!」
 しかし、楽しそうに見ているのはタンタラスだけではありませんでした。
 シド大公もヒルダ妃も、スタイナーもベアトリクスも、笑いながら二人がキスするのを待っています。
 ビビは、どうなるんだろうとドキドキして見ています。
 騒ぎを聞きつけて、ガーネットとエーコもキッチンから出てきました。
「……」
 ワクワクして待っている二人の少女を見たとき、ブランクは沈黙したまま呆れました。
「ほら、早くしろよ!」
 ジタンが囃し、「お前、覚えてろよ」と言うとブランクは諦めてルビィの額にキスしました。
 わっと歓声と拍手が起こり、ルビィは「何晒しとんじゃ〜!」と叫んでブランクを星の裏側までふっ飛ばしたとかふっ飛ばさないとか。


 さてさて、お次のお客様。フラットレイとフライヤがやってきました。
 タンタラス団が来てからこちら、会場は既に大騒ぎになっていたため、ドアベルの音には誰も気付きません。
 いえ、トイレに行っていたビビだけが気付いて、慌ててドアを開け、二人を迎え入れました。
「すごい騒ぎじゃな」
 フライヤは苦笑しながら言いました。
「うん、そうなんだ」
 ビビは帽子を直しながら、嬉しそうに答えました。
「あ、フライヤ! フラットレイ!」
 ジタンがシャンパンの入ったグラスを二つ持って玄関口までやってきました。
「今から乾杯するから、早く来いよ」
「まだしておらぬのにこの騒ぎか?」
 フライヤが眉を上げて言うと、「あいつらがうるさいんだって」とジタンは口を尖らせ、タンタラスの連中を指差しました。
 二人は乾杯の輪に加わることになりましたが、フラットレイは宿り木の下を通りかかったとき、誰にも見られないようにこっそりフライヤの銀髪にキスしました。
 ただ一人、後ろから付いてきていたビビだけが目撃し、しばらくは胸を押さえてドキドキしていたのでした。


 フライヤたちのお土産、カナッペを皿に並べ、さぁ乾杯、と言う時に、再びドアベルが鳴りました。ドアが開くなり、
「ちょっとぉ、ダンナのせいで遅刻じゃない」
「ふん」
 という会話が聞こえ、赤い髪の大男と褐色の肌の女性が入ってきます。
「遅い遅い! 今乾杯しようとしてたんだぜ?」
 ジタンが二人を手招きし、
「あ、待った。二人とも上見てみろよ」
 ん? と見上げると、そこには宿り木が。
「あら、今時こんな仕掛けする家がまだあるのね」
 ラニが小バカにしたように言うと、サラマンダーは鼻だけでせせら笑い、迷いもなくラニの腰を抱き寄せました。
「「「あ」」」
 と数人が声を上げ、ヒルダ妃が慌ててエーコの、ガーネットがビビの目を両手で隠します。
 スタイナーの顎が外れ、シナとマーカスは鼻血を出しました。
「……誰が濃ゆ〜いキスしろって言ったよ」
 ジタンが呆れたように言いました。


 さて、アツアツの二人が持ってきた度数の高いアルコールの瓶をテーブルの向こうに押しやり、グラスを二つ追加したところで、またまたベルが鳴りました。
「やぁやぁ、僕の小鳥たちがささやかなパーティを開いているというのは、この小屋のことかい?」
 金色のハデハデスーツで現れたのは、言わずもがな。
 しかも、インナーに何も着ていないという露出度の高さ。
「げ、誰だよあいつ呼んだの!」
「あら、だってミコトも呼ぶならクジャも呼ばなきゃだめでしょ?」
 ガーネットが言いました。
 クジャとともに現れたミコトは(明らかに状況を喜んではいませんでしたが)、「お招きありがとうございます」とガーネットに挨拶して、黒魔道士たちが苦心して作ったというキャンドルが数本入った袋を渡しました。
「これを使ったらロマンチックだろうからって。みんな来たがっていたわ」
 距離的に遠いことと、人数が人数なこととで、黒魔道士の村からはミコトだけが代表して来ることになったのでした。
「ありがとう! 早速灯してみるわ」
 ロウにいろいろなものを混ぜることで、炎の色が赤や青、緑、黄色に見えるロウソクは、みんなの注目を集めました。
 さて、こんな時に、もっと注目を集めたがるあの人はというと。
「今日のために、ガイアで一番背の高いモミの木を伐採してきたのさ。飾り付けるのに丸一週間かかったよ」
 銀竜の背から下ろすと、幹のほうから担いで家へ運び込もうとします。
「だ〜、そんなもんいらない! 家が壊れるだろ!!」
「クリスマスにツリーがいらないだなんて、さすがジタン、バカなことを言うね」
「そういう意味じゃね〜っての!」
 と、兄弟漫才をしていましたとさ。


「そういえば、クイナがまだだわ」
 ガーネットは追加した二つのグラスにシャンパンを注ぎながら、ふと言いました。
「あいつのことだから、また美味い物でも探しに行ったんじゃないのか?」
「それにしても遅いわ」
 ガーネットは、クリスマスケーキをクイナに頼んでいるので、心配なのです。
 すると。
「「あ! クイナ!」」
 窓から特大クリスマスツリーを眺めていたエーコとビビが声を揃えました。
 クイナはクリスマスツリーの匂いを嗅いでいます。
「もう、クイナったら!」
 行くわよビビ、とエーコは家の外へ走っていきました。
 エーコはクイナが持っていた大きな紙の箱が気になって仕方ないようです。
「あ、待ってよエーコ!」
 ビビも慌てて後を追います。
 二人に促されて、ようやくクイナが辿り着きました。
「アイヤー、みんなお揃いアルね。オッホッホ、途中で大きなカエルを見かけて、後を追っていたら遅くなったアルよ」
 クイナはケーキの箱を開けました。大きなケーキは豪華な三段重ねです。
「すごいわ、クイナ。さすがね!」
「見事なケーキじゃ」
「アイヤー、それほどでもないアル」
 クイナは褒められて満足そう。
 ここまで食べるのを我慢して持ってきた甲斐がありました。
 ところで。誰も気付きませんでしたが。
 エーコが宿り木の下で立ち止まってビビを待っています。
「何してるの、エーコ? ケーキを見に行かないの?」
 ようやく追いついたビビが驚いたように言いました。
 エーコはむすっとした顔で、心なしか頬を染めています。
「ほら、早くしなさいよ」
「え? 何?」
「ほんっと、ニブイわね。う〜え!」
 ビビが見上げると、そこには宿り木が。
「え? え?」
 ビビは困って辺りをうろうろと見回しました。
「もう、仕方ないわね」
 エーコは怒ったように言うと、ビビの頬に小さくキスしました。
「今日は特別なんだからね」
 そう言い残すと、エーコはケーキを見に走って行きました。
 ビビはそのまま固まったように立ち尽くしています。
 ぼんやりしているビビを心配して、ガーネットがやってきました。
「どうしたの、ビビ?」
「……」
 帽子のつばを両手でぎゅっと握ると、顔まですっぽり被ってしまうくらいにぎゅうぎゅうと引っ張っています。
「どした?」
 ジタンもやってきました。
「ビビの様子がおかしいの」
「な、何でもないよ?!」
 ビビは慌てて返事をしたため、声が裏返っています。
「腹が減ってるんじゃないか?」
「もう、あなたじゃないんだから」
 ガーネットはくすくす笑いました。
「あ」
 ふと、ジタンが上を見上げます。
「ダガー、つかまえた!」
「え?」
 ジタンは、ビビ越しにガーネットの肩を抱きました。
「へへ、この時を待っていたのさ〜♪」
「ちょ、ちょっとジタン?!」
 ビビはその様子を見て、一目散に逃げ出しました。



 クリスマス・イヴの夜にどこからともなくバハムートが現れたという噂が、アレクサンドリア一帯に流れましたとさ。
 きっと彼もクリスマスのご馳走を食べたかったのかも……ね?



-Fin-









とうことで、2年越しのお題?(笑) 2004年のクリスマスは「宿り木」となりました。
オールキャストと言いながら、出て欲しかったけど
出られなかった人もチラチラいますが(^^;)
わりとカップルばっかりなんで、まぁこんな感じで(笑)
「宿り木」ってどんなものなのか詳しくは知らなかったのですが、
冬になると葉が落ちて裸になった木の上に、
鳥の巣みたいな枝の集合体を見かけたことはありませんか?
あれだそうです。巣みたいだけど、巣じゃないそうです。7へぇ〜。

異様に長いページになってしまいましたが、
一連の流れなので1ページに納めてしまいました。
読みにくくてスイマセン(^^;)

2004.12.16






Novels            TOP