遠くでゴロゴロと、真夜中の空が不穏な共鳴をしていた。
 ルビィはベッドの中でギクリとした。
 苦手なものは数多くあるけれど、雷は嫌いなものランキング五位以内に入るほど苦手だ。
 どうか来ないで欲しいと願った。カーテンの隙間からは淡い光が時々洩れ、その度に遠くでまた空がゴロゴロと鳴った。
 ルビィは掛け布を引っ張って頭から被った。早く行け、早く行けと心の中で唱え続ける。布団の中の暗闇で、雷の音は次第にはっきりと、激しさを増し始めていた。
 窓の外が光ったが、布団を頭から被ったルビィには見えなかった。激しいフラッシュの後、轟音が街に響き渡って、ルビィはビクッと震えた。
 恐る恐る顔を出すと、窓の外がまた光った。
 今度は、布団を被る暇もなかった。まるで戦場のような音が響いて、アジト全体が大きく揺れた気がした。

 ―――怖い!

 ルビィはぎゅっと目を閉じて、枕を抱えて丸くなった。
 もし雷がここに落ちたら……どうしよう!
 そんなことを考えている間にも、雷はどんどん激しさを増していく。
 光っては爆音が轟き、爆音が止むとすぐにまた次が光った。
 あまりに強く抱きすぎて枕から羽が数枚飛び出したけれど、ルビィは全く気付かなかった。それどころではなかった。
 心臓が壊れそうなくらいに打っているのが自分でもわかった。息が詰まって、苦しくて死んでしまいそうだった。
 一際大きな轟音が響いて、ルビィが思わず小さく悲鳴を漏らした時。
 何かが、彼女の頭に触れた。
 思わずガバッと枕から顔を上げ、さっきよりも大声で叫びそうになったけれど。
「しーっ、俺だよ」
 口元を押さえられて、声は出せなかった。
 そして次の雷が光った時、誰がそこにいるのか彼女にもはっきり見えた。
「な、な、何よブランク! 何しに来たん!?」
 そう言った瞬間、さっきの雷がどこかに落ちた。
 恐慌状態で、ルビィは手を振り回した。
「笑いに来たんやろ! ムカツクーっ!」
「違うっての」
 ブランクはルビィの両手を掴むと、やれやれとベッドに腰を下ろした。
「何だよ、結構元気じゃねぇか」
「何が!」
 窓の外が再び光り、ルビィは思わず耳を塞いだ。
 そんなもので防げるものなら苦労はしなかったけれど。
「怖がってるだろうと思って、様子見に来たんだよ」
 ブランクは轟音の中、構わず喋り続けた。
「聞こえん!」
「耳離せって」
 耳を強く押さえつけている両手を離させようとしたら、彼女はそれに気付いて後ずさった。
「む、無理!! 絶対無理やもん!!」
「……」
 彼女の両手は鼓膜を破りそうな勢いだったが、ブランクはそれを諦めた。



 これ以上激しくなりそうもない程の雷は、ますます数を増やして、ここ最近珍しいくらいに鳴り続けた。
 ルビィは再び布団の中に潜り込んでいて、ブランクからは銀色の巻き毛の先っぽしか見えなかった。
「なかなか止まないな」
 聞いてはいないだろうと思いながらも、ブランクはそう話し掛けた。
「大丈夫か〜?」
 もぞもぞと掛け布が動いて、ルビィが顔だけ出した。始終部屋が光るので、ほとんど泣きベソの顔がよく見えた。
「ブ、ブランク」
「ん?」
「ちょ、手、貸してくれへん」
「は?」
 ルビィが殊勝に頼みごとなんて珍しい。ブランクはベッドに突いていた片手を出した。
 すると、ルビィも布団から手を出して、それを握り締めた。
 ブランクは思わず怪訝な表情になった。
「雷さん終わったら返すから」
「……ルビィ」
「あんたが悪いんやで。知っとるくせして、飛んで火に入る何とやらや」
 そんなに寒い夜ではなかったのに、ルビィの手は氷のように冷たくなっていた。
 余程怖いのだろう。ブランクは少し不憫になった。
「何がそんなに怖いんだよ」
 世間話でもしようかと、ブランクはそう訊いてみた。
「だって、落ちたら死んでしまうんやで」
「そうそう落ちるかよ」
「どこかには落ちとるやない、ここに落ちるかどこに落ちるかわからんやろ」
「確率の問題だろ、それ」
「でも次はここに落ちるかも」
 そう言った途端、自分で自分の言葉に震えて、ルビィは握っていた手をもっと握り締めた。
「そしたら、あんたうちと一緒に死ぬんやで」
「あー、そうだな」
「一人寂しく、暗くて深ーい穴蔵みたいなとこに行くんやで」
「それ、誰か見たのかよ」
「……見てへんけど」
 ルビィはふと口を噤んだ。そして、次に出たのはごく小さな声だった。
「……手繋いだまま死んだら、同じ場所に行くんかな」
「さあな」
 ルビィは繋ぎ合った自分と相手の手を、不安げにまじまじと見つめた。
「俺は」
 ブランクは、横向きに寝そべったままの顔を眺めながら呟いた。
「構わねぇぜ、一緒でも」
「……へ?」
 ルビィがガバッと顔を上げた。
「な、何言うとるん、いきなり!?」
「お前が心細そうな顔するからだろ」
「し、し、してへんもん!」
「してるぞ」
「うるさい黙れ!」
 ルビィはガバッと布団を被って、煩い雷も、ブランクの声も、聞こえないように耳を塞いだ。
 普段なら耳を塞いだってはっきり聞こえるはずのゴロゴロいう音は聞こえず、代わりにドキドキ鳴っている自分の心臓の音が煩くて煩くて、耐えられなかった。
 不意討ちすぎ。ただでさえ、雷のせいで精神状態不安定だったのに。


 ある意味、雷より怖いかも。



-Fin-





勝手に一人ブラルビ絵チャ大応援祭、勝手にお題風味第5弾『怖い』でした。
最後はちょっと可愛い感じでv(そうか?) うちのルビィはどこまでも乙女ですな。
そんなこんなで、ブラルビ絵チャ大応援祭お題、これにて閉幕でございます。
全国ブラルビーゼ党の皆さまへ、心からの感謝と親愛の気持ちを込めてv(イラネー)

2007.3.12









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