<4>


「……三日?」
「そう、三日しかないんだ。あのおっさん、それしか猶予をくれなかったんだよ!」
「ちょっと待って、落ち着いてジタン」
 ガーネットがおろおろとジタンの腕を抑えたが、ジタンは取り乱していて、訳のわからないことを喋り続けていた。
 自分との結婚を許してもらいに行ったのに、どうしてこの人はこんなに混乱しているのだろう? 何が三日しかない、なのだろうか? ガーネットは豆鉄砲を喰らったハト状態である。
「ジタンったら、最初からちゃんと説明してよ」
 ガーネットは彼の腕を揺さぶった。
「最初からも何も、兎に角大学に行かないとダガーと結婚できないんだよ!」
「大学?」
「シドのおっさんがそう言ったんだよ。大学を卒業しなかったら結婚させないって」
「おじさまが?」
「そう」
 ジタンはようやく落ち着いてきたらしく、順番に説明できるようになってきた。
「それで、九月から通うことになるんだけど、その前に補習を受けなきゃならないんで、三日後にはリンドブルムに帰らないと間に合わないわけで……」
「三日……」
「しかも、三日後にリンドブルムへ行ったら最後、卒業するまでの二年間はダガーに会ったらいけないって……! そんなのオレ耐えられないよ!」
 やっと合点がいって、ガーネットは小さく溜め息を吐いた。
 彼女の頭の中は、『酷いわおじさま』と『ありがとうおじさま』が交互に木霊していた。
 ジタンはリンドブルムの平民で、政治に関しては全くの素人である。それが突然、アレクサンドリアの女王と結婚して国王にならねばならないのだから、この大陸で最も権威と言われるリンドブルム大学を卒業すれば箔もつくし、その知識が役にも立つだろう。
 しかし、二年間も彼と会えないなんて、そんなことはガーネットにも耐えられそうになかった。
「でも……おじさまがそう仰るなら」
「ダガー!」
 ジタンがこの世の終わりのような声で彼女を呼んだ。
「あなたが帰らなかった二年を思えば、あなたが元気にリンドブルムで勉強してるってわかってるんだから……我慢できるもの」
 ジタンは押し黙った。それを言われると返す言葉がない。
「それに、私手紙を書くわ。毎日」
「ま、毎日?」
「ええ、毎日書くわ。今日何があったか、何を考えたか、全部手紙に書いて、あなたに送るわ」
「……ダガー」
 一緒に暮らしていても、今日何があったか、その全てを話すことは滅多になかった。
 それを手紙に書いて送ってくれるなんて、ジタンには堪らなく魅力に思えた。それに、手紙を書いている間、きっと彼女は自分のことを想ってくれるに違いない。
「オレも書くよ、手紙」
「あなたは勉強優先よ」
「……わかってるけど」
「必ず二年で卒業して帰ってきて。待ってるから」
 ガーネットはふわりと、花のように微笑んだ。
 ジタンは、その笑顔を脳裏に焼き付けた。二年間、その笑顔が見えない力となって、自分を支えてくれるに違いないと思った。



***



「本当に二年も引き離しておしまいになりますの?」
 ヒルダは怪訝な顔でシドに尋ねた。
「まさか、そんなはずがあるまい」
 と、シドの方が驚いた顔でヒルダを見た。
「ガーネット姫が可哀想ではないか。二年というのは嘘じゃ」
「まぁ……あなたったら!」
「ただし、次の長期休暇まではデート禁止じゃ。姫にはそう伝えておくが、ただしジタンには内緒じゃ」
 そして、彼はパチッと片目を閉じて見せた。その仕草が可笑しくて、ヒルダは小さく笑い声を立てた。




-Fin-





久々のジタガネ部屋、今回はプロポーズのエピソードでございました〜!
そういえばプロポーズを書いていなかったなと。姫祭では書きましたが(笑)
どうしてジタンが大学へ行くハメになったのか、これでようやくお披露目できたわけで。
…いや、どうして行くハメになったかと言えば、それは私のツボ故ですが(爆)
だって一生懸命勉強してるジタンなんて、ちょっと可愛いじゃないですかー!!
…私だけですね、はいすいません(反省中)

以前にもどこかで言いましたが、実はリンドブルム大学はとても設定が細かいです。
そんなに細かくする必要はなかったんですが…シナの設定とも少し被るので。
シナの設定とか言って、まだ何一つ出てきてないんですけどね(^^;)
もしご興味がありましたら、リンドブルム大学の細かい裏設定はこちらからご覧下さい。

この話、最初はプロポーズ秘話のつもりもなく書き始めたんですが、
というか、もっとシリアスな話になるはずだったんですが、
気付いたらおバカなジタンが駆け回っているお話になってしまいました(笑)
どうしてサイトの設定に戻ってくるとジタンがこんなにも情けないんだろうか…謎です。


2007.2.27







BACKBACK       NovelsNovels       TOPTOP